短編『乙女と恋と残酷と』
一体、今回で何回目だろうか。
8月5日、午前8時57分、起床。
約6時間後に、彼は死ぬ。
前回は、私が呼び止めたせいで車に轢かれた。
前々回は、私が呼び止めなかったから、車に轢かれた。
その前も、その前も、その何回も前も。何度も彼は、死んだ。
その度に、私は願った。
夢であって、くださいと。
そして、気が付くと8月5日の朝に戻っている。
目覚まし時計を止め、もう100回は迎えたであろう朝と出会う。
今回も、彼は死ぬのだろうか。
もしそうなら、今回も夢であって欲しい。
どうか、彼が生きる明日を。
どうか、彼と生きる明日を。
お願いします、お願いします。
どうか……
……神様。
午後1時。彼と会う。
彼は2時間後、車に轢かれて死ぬ。
それが、運命なのかもしれない。
だけど、私はそれを避けようと願った。
夢であって欲しいと、何度も願った。
その願いが何度打ち砕かれようと、私はそれを願い、そして朝を迎えた。
絶対に諦めたくなかった。
たとえ、何度目の前で彼が死のうとも、決して受け入れたく無かった。
絶対に、絶対に諦めない。
そう、固く決意していた。
ふと、彼の顔を見る。
何かに、疲れた表情。
前回も、その前にも、彼はどこか疲れているようだった。
それが気になって、私は聞いた。
「どうしたの? 何か疲れてるみたいだけど」
「あー……いや、ちょっと変な夢見ちゃって」
「変な夢?」
「うん。なんか、車に轢かれる夢でさ。そんで、すんげぇ痛いの。
すげぇリアルで、マジで死ぬかと思った」
「…………」
「で、痛くて目を覚ましたらさ、また車に轢かれて。それが何回も繰り返されてさぁ」
「…………」
「もう、こんな痛い思いするくらいなら死んだ方が良いや、とか思ったよ。マジで」
「…………」
「ん? どうかしたん?」
「…………ううん。なんでもない」
その日の午後3時過ぎ、彼は死んだ。
車に轢かれて、死んだ。
だけど私はもう、それが夢である事を願わなかった。
それを受け入れない限り、彼は何度も死の痛みを感じ、
私は何度も死の悲しみを感じる。
きっとそれが、現実から目を背けた私への、罰。
だから私は、受け入れる。
悲しみも、何もかも。
彼のいる明日は来ない。
でもそれは、決して残酷なことではない。
本当に残酷なのは、彼を何度も殺してしまった、私自身。
自分の弱さに気付けずに、何度も、何度も殺してしまった。
謝る事は出来ない。償うことも出来ない。
私は、ずっとそれを背負って、生きていくんだ。
もう何もかも、夢にはならなかった。
8月5日、午前8時57分、起床。
約6時間後に、彼は死ぬ。
前回は、私が呼び止めたせいで車に轢かれた。
前々回は、私が呼び止めなかったから、車に轢かれた。
その前も、その前も、その何回も前も。何度も彼は、死んだ。
その度に、私は願った。
夢であって、くださいと。
そして、気が付くと8月5日の朝に戻っている。
目覚まし時計を止め、もう100回は迎えたであろう朝と出会う。
今回も、彼は死ぬのだろうか。
もしそうなら、今回も夢であって欲しい。
どうか、彼が生きる明日を。
どうか、彼と生きる明日を。
お願いします、お願いします。
どうか……
……神様。
午後1時。彼と会う。
彼は2時間後、車に轢かれて死ぬ。
それが、運命なのかもしれない。
だけど、私はそれを避けようと願った。
夢であって欲しいと、何度も願った。
その願いが何度打ち砕かれようと、私はそれを願い、そして朝を迎えた。
絶対に諦めたくなかった。
たとえ、何度目の前で彼が死のうとも、決して受け入れたく無かった。
絶対に、絶対に諦めない。
そう、固く決意していた。
ふと、彼の顔を見る。
何かに、疲れた表情。
前回も、その前にも、彼はどこか疲れているようだった。
それが気になって、私は聞いた。
「どうしたの? 何か疲れてるみたいだけど」
「あー……いや、ちょっと変な夢見ちゃって」
「変な夢?」
「うん。なんか、車に轢かれる夢でさ。そんで、すんげぇ痛いの。
すげぇリアルで、マジで死ぬかと思った」
「…………」
「で、痛くて目を覚ましたらさ、また車に轢かれて。それが何回も繰り返されてさぁ」
「…………」
「もう、こんな痛い思いするくらいなら死んだ方が良いや、とか思ったよ。マジで」
「…………」
「ん? どうかしたん?」
「…………ううん。なんでもない」
その日の午後3時過ぎ、彼は死んだ。
車に轢かれて、死んだ。
だけど私はもう、それが夢である事を願わなかった。
それを受け入れない限り、彼は何度も死の痛みを感じ、
私は何度も死の悲しみを感じる。
きっとそれが、現実から目を背けた私への、罰。
だから私は、受け入れる。
悲しみも、何もかも。
彼のいる明日は来ない。
でもそれは、決して残酷なことではない。
本当に残酷なのは、彼を何度も殺してしまった、私自身。
自分の弱さに気付けずに、何度も、何度も殺してしまった。
謝る事は出来ない。償うことも出来ない。
私は、ずっとそれを背負って、生きていくんだ。
もう何もかも、夢にはならなかった。
