不思議の国の軟体鉱物

2011-12

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『Respective Tribute』 第6章「スカーレット・ドレス」 Part6

 前→「スカーレット・ドレス」 Part5

「迎撃準備は進んでいるか?」
 神崎は扉を開くと同時に言った。扉の先は書斎へと続く廊下、そこに待っていたのは全身を白に染め上げたローエングリンだった。
「へぇ……それがお前の本来の姿ってわけか」
 黒かった髪の毛は白くなり、全身を覆う革製らしき衣服、ブーツまで真っ白である。白くないのは肌と眼と、鈍く光る刃のみ。
「俺に与えられた、正装だ。『女王』と戦うのに相応しい姿は他に無い」
「志気が高まるのなら何でも良い。それで、準備の方は」
「狙撃手の配置は間もなく完了する。それ以外の兵も指示通り、3人1組で待ち伏せの準備に入っている」
「各兵の交信状況は?」
「良好だ」
「ホンシアたちは?」
「近くまで来ているようだが、間に合うかどうか分からない」
「頼れそうにないな……」
 洋館までの飛行中、自分なりに最善を尽くした指示を通信連絡したが、神崎は一抹の不安を覚えていた。
 3人1組での行動――集団で一斉に迎撃を行う手もあったが、『女王』があのか細き豪腕で1人でも殺したならば、恐怖が一瞬にして伝染し混乱は確実だと予想された。それよりも狭い廊下での待ち伏せを複数用意して、『女王』の動きを束縛した方が良い。神崎はそう判断した。
 各所に設置された監視カメラで『女王』の位置を捉えつつ連携すれば、狩りのように追い込み、『女王』を仕留めることが出来るかもしれない。たとえ『女王』といえども、手の平で転がされては無力なものだろう。
 だがそれら全てが無意味になる予感を、神崎は払拭することが出来ないでいた。高速で走る乗用車1台を難なく破壊したあの力に、果たして不可能などあるのか。
 『女王』の可能性が脅威となって、神崎の不安を煽り立てる。
 頭を振り、神崎は冷静を保とうと務めた。自分の主人が今まさに戦っているのだから。紛れも無い化物にたった1人で立ち向かっているのだから。
 神崎はローエングリンの横を通り過ぎ、書斎へと入った。部屋の片隅に置いてある服と十数本のナイフ、神崎のための装備。
 神崎はナイフの1本を取り、握り締める。主の無事を祈るように。戦う勇気を得るように。
 震える手が治まるまで、神崎は無言でそのナイフを握り続けた。

 高速で突き出される『女王』の手を避け、払いつつ、陰島は後退飛行を続けた。
 直線に伸びる緩やかな傾斜の先には、目指すべき屋敷がある。振り返るまでも無い、このまま後ろ向きに逃げ続けることが出来れば目的は達成される。だがそのためには、前を向いて戦わなければならない。
 絶え間無く攻撃を続ける『女王』、彼女が狙っているのは恐らく陰島の両腕。それを掴まんと『女王』の2つの手は工業機械の如き無慈悲な正確さと速度で伸び来り、退き縮む。その熾烈な攻撃に、陰島は防戦を一方的に強いられていた。
 魔導士は自分自身に近い距離であればあるほど強い魔力を発生出来るが、例外がある。自分の以外の人体に対しては、大抵の場合魔力が作用しない。だからこそ陰島は『女王』の攻撃を魔力で緩和することが出来ず、また『女王』も陰島の骨や筋肉に対する致命的な魔力発生を行うことが出来ないのである。
 逆に自分の人体に関してはそのような抵抗が無く、魔導士は出し得る最大の加速度を加えた打撃を行うことが出来る。だが、それにも問題があった。
 陰島は『女王』の連撃を捌きつつ、それに伴う痛みに歯を食いしばった。魔力により加速した打撃の威力は自身への反動も大きくする。仮に『女王』が最大の魔力で拳を撃ち出したなら、陰島の胸部に大穴が開くと同時に『女王』の骨も粉々に砕けることだろう。たとえ『女王』の身体が人間以上に強固であろうとも。
 己に対する強い魔力は、諸刃の剣。自分が耐えられる範囲の力しか接近格闘においては用を成さない。そんな限界の中、自身へのダメージが少なくかつ相手へのダメージを甚大にする攻撃――それは衝突を行う打撃技では無い。
 相手の関節を破壊するための関節技こそ、主力だった。
 拳をぶつけるなどの打撃に対し、関節技は衝突の無い攻撃。即ち、攻撃者への反動も皆無。最大の加速度で以て攻撃しても、自身は当然耐えることが出来る。
 『女王』の動きは、明らかにそれを狙っていた。
 腕が掴まれたなら最大の力で捻じ曲げられ、指先一つ動かせなくなる。そうなった場合『女王』を攻撃することはおろか、もはや防御すらままならない。
 間違いなく、殺されるのだ。
 それを防ぐために、陰島は必死で防御に徹した。攻撃を考える余裕は無い。攻撃に転じようとした瞬間に、どちらかの腕が死ぬのだから。
 緊張と焦りによって鬼のように歪んでいる陰島の形相に対し、『女王』の表情は見るからに喜びを湛えていた。

 次→「スカーレット・ドレス」 Part7

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