不思議の国の軟体鉱物

2017-06

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長すぎ!!

どうも、ひさびさに更新頻度が多い私です。
でも今回は小説更新だけ。
というか……長すぎるぞ今回の分。
読者が1,2人いるかどうか分からないのに!!
どうして長くなるのだろうか……ふむ。

~『Respective Tribute』 第83回~

 右手に持った剣をローエングリンは魔力で無理矢理振りかぶる。しかしその腕は『女王』に容易く掴まれてしまった。
「何故……何故俺に命じたっ!? 何故俺にアイツを殺させようとしたっ!!」
「選択権を与えたかったのだ。君にも、エルザにも」
 そう言ってから『女王』は右拳でローエングリンの腹を突き、同時に掴んでいた腕を放す。その一撃はローエングリンの集中を切らし、彼は弛緩した身体で再び壁に倒れこんだ。
「聖杯の力、超自然の分子運動。その原理は不明だが、エルザの心臓部にある聖杯は彼女の心臓として確かに機能している。よって、聖杯を手に入れるためにはエルザを殺さなければならない。なればこそ、手に入れるべきかどうかの『自由』を君に託したかった」
「『自由』……」
「そうだ。君が私の命令を無視し、聖杯の探索を行わないのならそれでも良かった。逆に君が命令に忠実であるようならば、エルザへの説得を行わせるつもりだった。聖杯のために彼女がその命を捧げてくれるよう」
「俺がそんなことを、するとでも……」
「思ってはいない。だが、第3の選択肢を選ぶ可能性は充分にあった。聖杯の在処を知った君が、私への謀反を企む可能性。そしてそれは、現実になった」
 ローエングリンは苦々しく表情を歪める。自分の行動が読まれていた腹立たしさに、胸が詰まるような痛みを感じた。
「この場合、君を殺す正当な理由は充分にある。そして君を殺したならば、エルザは必ず私へ反旗を翻すだろう。そうなれば次は、エルザを殺す正当な理由が生まれる。そして最後に、正当に聖杯が手に入る」
 ローエングリンにとって、それは吐き気を催す論法であった。
「私とて咎の無い同族を殺す権利は持っていない。それ故、聖杯を手に入れるためにはエルザ自身が罪を犯す必要があった。その呼び水となることも考えた上で、君に聖杯探索を命じたのだよ。エルザと懇意である君こそ、エルザに罪を負わすことの出来る者であると考えて。流石にここまで都合の良い方向に事が進むとは考えていなかったが」
「悪魔め……」
 その言葉に、『女王』はさも嬉しげに微笑んだ。
「悪魔か、そう言われても仕方無いさ。だが、私を悪魔にしたのは君だ、ローエングリン」
「何を……」
「違うとでも言うのか? 君には選択肢があった。自由があった。その自由の中から君が選んだのは、君にとって最悪の選択だった。私への抗い、君とエルザを破滅に導く罪。それを選んだのは君自身なのだよ、ローエングリン」
「それを選ばせたのは貴女だ、『女王』」
「本気で言っているのか? 私は『自由の女王』の名に恥じぬよう、そして『女王』という不相応な通称に足るよう、卑劣な策を避けてきた。せめて相手に選択権があるように、『自由』があるようにと。君にも相当な選択肢があったはずだ。私に抵抗するにしても、他の選択肢がいくらでもあっただろうに」
「他の選択肢だと……」
「教えてくれ、君は何故エルザの傍を離れたのだ? 最も守るべきだった者の傍を離れた、その理由は何だ?」
「アイツに真実を知られぬまま、貴女を倒すためだ」
「それが過ちなのだ、ローエングリン」
 思いも寄らぬ言葉に、ローエングリンは呆然となった。数ヶ月間、悩んだ末の結論。エルザを傷つけずに、全てを守り抜くための選択。その決意が今、否定されたのだ。
「何故君は、エルザに真実を知らせなかった? エルザが真実に傷付くことが怖かったのか? しかしだ、ローエングリン。私には過酷な真実に負けるほど、エルザは弱く無いように見える。もしかしたら、だ。君よりも遥かに強い心を、彼女は持っているのかも知れない。心だけでない。聖杯の加護は彼女を戦う者としても高めているはずだ。
 エルザを守る最も良き方法は、エルザに真実を知らせ、エルザ自身に道を選ばせ、そして君はそんなエルザの傍を片時も離れない。それで、それだけで良かったはずだ。耐えるにしても戦うにしても、君がエルザを守り、エルザが君を支えただろう。エルザにとっても君にとっても、それこそが最良の選択であったと私は思う。だから、問い続けよう。君は何故、そうしなかった? 何故君は今、エルザの傍にいない?」
「俺は……」
 言葉が、続かなかった。
「真実を隠し通し、たった1人で全てを背負い込み、君は一体、一体何が守りたかったのだ? 答えろ、『守護の王』、答えろ、ローエングリンッ!!」
 『女王』の怒声を受けながら、ローエングリンは思い出していた。数ヶ月前、アリスと別れた日のことを。
 あの日、ローエングリンはアリスを巻き込もうと考えていた。エルザを守るために、共に『女王』と戦おう。そう言うつもりだった。だが、彼は出来なかった。死地に誘うことなど出来なかった。
 何かが怖かった。誰かが怖かった。彼は次第に分かってきた。自分が本当に恐れていたこと。自分が一番見たくなかったもの。
 それは汚される事。傷付いてしまうこと。
「『女王』、俺は……」
 幸せだった、あの日。3人の時間、その記憶。
「傷一つ、付けたくなかったんだ。アイツにもアリスにも、あの場所にも」
 エルザに真実を伝えたならば、エルザと共に戦うことを選んだのならば、彼女の生命にとってより良い方向に進んだのかも知れない。だが、真実や現実は少なからず彼女の無垢を汚し、構造体『トルソー』は『女王』から身を守るための要塞と化してしまう。きっとアリスまで巻き込み、全てが戦いへと向かってしまうだろう。
 ローエングリンはそれを避けたかった。それを見て、心を傷つけたくなかった。だから彼は秘密を守り続けた。全ての脅威を自身の胸の内にしまい、彼は『守護』しようとしたのだ。エルザを、アリスを、あの場所を。そして自分の心を。
 相手がたとえ絶対に敵うことの無い者であっても。
「だが、怖かった。相手が貴女だったから。守りきれる自信が無かった。アイツを殺しに来る時を待つなんて事は、とても耐え切れなかった。怖くて、怖くて、どうしても」
 ローエングリンは瀕死の縁で自分の本心を受け入れていた。恥とも言える臆病さの吐露。多くの死と失敗によって、彼にはもはや自分の弱さを認めずに虚勢を張ることなど出来なかった。
「耐えられなかったんだ。貴女からエルザを守れないかも知れない、そんな想念に。だから俺は1人で行くことにした。耐え切れなくなるその時が来る前に、貴女を殺すために」
 そう言って、ローエングリンは言葉を止める。彼の告白の間、『女王』は終始無言だった。その表情は深刻に聞き入ってるかのように、ローエングリンの苦悩に共感しているかのように見えた。
「それが……君の答えか」
 静かに、『女王』が口にした。
「『女王』、私は弱い者なのです……」
 自嘲気味に笑ったローエングリンに対し、『女王』はゆっくりと首を振った。
「ローエングリン、弱さは誰にでもある。君は私への畏れの中、エルザを傷付けずに全てを済ませる道を探した。恐怖に耐えられなかったのだとしても、君は逃げ無かった。守るべきものを守り通そうとした。耐えられないものを受け流し、自分が耐えられる正しき『守護』を君は選んだ。苦悩は計り知れないものだっただろう。何度も己に問い掛けただろう。だがその結果エルザに何も知られること無く、君は私にここまでの傷を与えた。まさしく『守護の王』に相応しき、敬意を払うべき精神なのだと思う。だが――」
 『女王』は言葉を切った。
「それは本当に君1人が背負うべきものなのか?」
 ローエングリンは微笑み、こう返した。
「他に背負わせるわけには、行かない」
「だが、君は死ぬ。そうしたら、誰がエルザを守るというのだ」
「死ぬ気なんて、最初から無かった。俺が死んだら、やはり」
 『女王』の背後、黄昏ていく空を見つめながら。
「アイツは、泣いてしまうから」
 その時、空と建物の間に彼は発見した。まだ終わりで無いことを告げる、勇姿を。
「……『女王』」
 その姿が彼に希望を呼び起こさせた。諦めつつあった、命。それはまだきっと、生きている。
「何だ、ローエングリン」 
 誰がエルザを守る? きっと誰も守ってもくれない。だが、ローエングリンは信じようと思った。『女王』を倒す者ならばまだ生きていると。それを託せる友が、自分には居るのだと。
「お別れです」
 魔力で加速度を発生させ、ローエングリンは右手を首の高さまで上げた。剣の刃が顎の下、喉元のすぐ近くで光っている。
「何のつもりだ、ローエングリン」
「……」
 お互いに微動だにしない、沈黙の緊張。真意を探ろうとするように凝視する『女王』の目を、ローエングリンは黙って見つめ返す。
「何を考えている、気に入らない、気に入らないことばかりだぞローエングリンッ! 貴様は孤独に戦い、孤独に死ぬつもりかっ!?」
 『女王』の注意が自分に注がれていることを、ローエングリンはひしひしと感じていた。
 可笑しくて、彼は思わず口元に笑みを浮かべる。
 
 そして、ホンシアの弾丸が『女王』の右肩の肉を弾け飛ばした。
 
 『女王』が苦痛に怯んだ刹那、ローエングリンは出せうる全ての魔力で剣を振った。上がることも無い弱々しい斬撃は、しかし『女王』の左脛に食い込む。
「ローエングリン……!!」
 憎々しげに『女王』がローエングリンを見る。
「自分の命を囮に、ホンシアの銃撃を成功させたということかっ!!」
 『女王』は即座に左脚を動かし、赤く染まる傷から剣を抜き、そのまま左の足で剣を踏みつけた。
「見事、だが失敗だ! だが、だが、だが!! 分かったぞ、ローエングリンッ!! エルザを守ろうという信念は君だけが背負っていた、しかし君は目的が同じ者、即ち私を打倒せんとする者たちと共に歩むことでその重みに耐えたということかっ! 攻撃は最大の防御、つまり陰島、神崎、ホンシアという剣がエルザにとっての盾と成り得、そして君は彼らを信頼して、そういうことなのだろうローエングリン! 
 まさしく、君たちは仲間、それぞれが何かを背負いつつ決してそれを誰かと分かち合わない、だが全員が同じ目的に向かう、そんな対等の仲間だったのだろう!? それぞれの敬意を持つ者たち、だから私がここまで、ここまで血を流したのだ!!」
 『女王』の右腕が大きく振り上げられた。
「君の主であったことを、私は誇りに思う。『守護』を目指す中で人間と深く触れ合い、共に歩むことが出来た君を。『守護の王』の名に相応しい、君を」
 最後に、『女王』は満足げに微笑んだ。
「見事だった、ローエングリン」
 鮮血を飛ばし振り下ろされた手刀によって、ローエングリンの首から血が噴出す。それを背に浴びながら『女王』は振り返る。南棟の屋根、ホンシアのいる場所を見つめ、彼女は猛速で飛び立った。
 残されたローエングリンは、静かに目を閉じる。
 大丈夫、まだアリスがいる。アイツならきっと、必ず。あんなに巻き込みたくなかったはずなのに、何故だ、願ってしまう。アイツが俺の、俺達の遺志を継いでくれることを。エルザと同じように、汚したくなかったのに――
 瞼の裏、あの湖の記憶が映る。栗毛色の無垢な笑み、不機嫌そうな金色、自分はどんな顔を――
 あぁ、そうか。もう、駄目なんだな、3人じゃないから。俺が死んだら、もう2度とあの日には帰れないから。
 だから、もう……いいんだ。俺がエルザを想う様に……アリスが俺を弔ってくれれば。
 そう……ああ……エルザ……もう一度だけ、会っておけば……何かが……
 変わったかもしれない、そのイメージが言葉の形になる前に、ローエングリンの精神は途切れた。
 残されたのは白い死体に赤い血、白銀の刃。
 真っ黒な思考、苦悩も後悔も恐怖はもはや無い。
 栗毛色と金色の思い出も、もうそこには無い。
 死んだ男にはもう、何も、無い。
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