不思議の国の軟体鉱物

2017-06

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『Respective Tribute』 第1章「魔力少女」 Part3

 前→「魔力少女」Part2

 午後7時。2人は都内のレストランにいた。既にパスタ、ピザ、サラダを食べ終え、テーブルには汚れた皿が散乱していた。
 アリスはさらにデザートを3品ほど頼み、その1つ目にスプーンを突き入れていた。
「にしても、良く食べるわね」
 ストロベリーソースのかかったジェラート1つ。奈々子のデザートはその1品だけで、そしてそれで十分だった。
「太るわよ」
「そうでもないわ。そういう体質なの」
 アリスは1つ目、チョコレートムースから目を離さずに答えた。奈々子はアリスが甘い物を多めに注文することは見越していたが、それでもため息を吐かずにはいられなかった。
 わざと安い店を選んだので、値段が原因では無かった。悩みの無さそうな彼女を見てると、奈々子は癖であるかのようにため息を吐いてしまうのであった。
「……」
 遠慮しなさい、と言ったところで意味は無いわね。この子が「遠慮」なんて言葉、知っているはずないもの。
 奈々子はまたため息を吐きそうになった。そんな自分に気づき、彼女はそれを抑える。一体、このため息はどんな心が出しているのか。呆れている自分か、羨んでいる自分か。
 デザート1つ分が奈々子の食道を通り終わっても、アリスの前にはまだ2つ目の品が半分ほど残っていた。2品目は奈々子と同じくジェラート。頬を緩ませながらそれを食べている彼女を可愛らしく思う反面、少し邪魔してみたくもなるのが、奈々子の性格だった。
 奈々子はバッグから手帳を取り出し、胸ポケットのボールペンを構えた。
「……ん」
 唇の端に赤いソースをつけた顔が、奈々子を見た。
「今日も少し聞かせてくれないかしら」
 手帳をめくりながら奈々子は言った。
「また? そんなに気になるものかしら」
「気になるわ。個人的にね」
 奈々子は時折、アリスから話を聞く。奈々子と出会う前のアリスの話。アリス自身は嫌がる素振りを見せながらもそれらを話し、奈々子は本当に個人的な興味でそれを書き留める。
「楽しいのよ。現実がここまでファンタジーだと」
「私は恥ずかしいわ」
 アリスは視線をジェラートに戻した。つまらなそうな顔をして。
「いいじゃない。既に世界は幻想に満ちている。恥ずかしがるほどの夢物語じゃ無いわ」
「まだ人間は常識に縛られている、でしょ。奈々子だって今、夢物語って言ったわ」
 奈々子はまたしてもため息を吐きそうになった。アリスは子供っぽい。天邪鬼だ。もっと素直になれば良いのに。
「大シンボル……だっけ。もうちょっと詳しく聞きたいの」
「……シンボル・オーバーロード。大象徴って呼び方もあるけど、何でもいいのよ」
 それでもアリスは語る。恥ずかしいと口にしつつも、自分の過去を話したくて仕方が無いのだろう。アリスは矛盾だらけ。その矛盾が見えているということは、結局の所彼女がとても単純だということ。
 まだまだ子供ね。大人気取りの奈々子は常々そう思っていた。
「で、それって結局どういうものなの」
「うんと……うまく説明できないけど、イメージから生まれたもの、って感じかしら」
「イメージって……誰の」
 眉間に皺を寄せ、アリスの顔は難しい表情を形作った。
「人間の、だと思うわ。人の色々なイメージを形にしたのが、私たちみたい」
 私たち――つまりアリスを含めた、大シンボルと呼ばれる存在。
「もっと具体的にならないかな。例えば、その、大シンボルのどんな所にイメージが現れてるのか、とか」
「う~ん……性格や見た目、あとは肩書きかしら」
「肩書き?」
「月の女神とか、守護の王とか」
 奈々子は思わず、口の左端に笑みを浮かべてしまう。
 いいじゃない。とても幻想的だわ。
「他には?」
「ぬいぐるみの女神や…………自由の女王なんてのもいる」
 ぬいぐるみという言葉に、奈々子は口の右端にも笑みを浮かべる。歯が見え、完全に微笑んでいた。
「凄い。面白いわね」
 アリスは顔が少し赤い。
「恥ずかしい肩書きだわ。名前負けしてるもの」
「女神とか女王とかで、何か違いはあるの?」
「そんなの無いわ。ただの肩書きよ」
「その肩書きが、大シンボルの現すイメージなのね」
 アリスは頷く。
「そうよ。性格とかと併せると、もっとそれっぽいから」
「へぇ……」
 ぬいぐるみの女神は見た目もぬいぐるみなのだろうか。奈々子はその姿を想像しつつ、ある事が気になった。
「アリスは……何?」
 聞いて欲しくなかったのか、嫌な顔をするアリス。
「答えたくなかったら、いいけど」
「笑わないでよ……夢の女王よ」
「夢の女王……」
 人間が夢に抱くイメージ。それが目の前にいるこの、アリス。奈々子は少し感心した。
「なるほど、そんな気もするわね」
「どの辺が」
「なんだろう、好き勝手やってる辺り、かな」
 笑みを湛えて答えた奈々子に、アリスが反論する。
「生まれてから一度だって、本当に好き勝手出来た事なんて無いわ」
「まだ不十分だって言うのなら、本当にそれっぽいわね」
 奈々子の話を聞きながら、アリスはスプーンを入れたままの口を尖らせていた。あまりにも露骨な、不満の表情である。
「羨ましいわ」
 奈々子の本心だった。

 次→「魔力少女」 Part4

スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://longstraight.blog79.fc2.com/tb.php/391-b9cc5c49
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

 | HOME | 

FC2Ad

 

『Respective Tribute』

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

リンク

このブログをリンクに追加する

プロフィール

kuroron

Author:kuroron
黒髪ロングストレート好きの20代メンヘラです

目撃者数

 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。