不思議の国の軟体鉱物

2017-10

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『Respective Tribute』 第1章「魔力少女」 Part4

 前→「魔力少女」Part3

「それで、その大シンボルは『構造体』の中で生まれたのよね」
「大シンボルが作られてるのは、その中で一番大きい物だけ」
 膨れっ面のままアリスが言った。
 『構造体』――数年前に深海から浮上し、数日で再び深海へと沈降した巨大な浮遊建造物。魔導士が、企業が、国家が、多くの者が関心を持つ、恐らくはエーテルの発生源。そして恐らくは、魔力の発生源。 
「それじゃあアリスも、そこで生まれたんだ」
「そうよ。大シンボルはみんなそう」
 奈々子は今までにアリスから聞いた話を思い出す。『構造体』が複数存在していることは聞いていた。そこで生まれた大シンボルと呼ばれる存在が、『構造体』を出て人間社会に紛れている事も。
 今聞いているのは、その続きだった。
「さっきさ、人のイメージから生まれたって言ったけど、そのイメージって何処から来てるのかな」
「何処からって?」
「本や何かを参考にしたのか、それとも」
 それとも、まさか直接――
「う~ん……本とかじゃないと思うわ」
「それなら、一体どうやって」
「えっと……」
 アリスが口ごもる。隠し事をしているようにも見えるし、考え事をしているようにも見える。奈々子から見れば、どちらにしてもアリスらしくないことだった。
「何か凄い機械で、人間の心を読んでる、とかかしら」
 奈々子はアリスをじっと見詰めた。冗談なのか本気なのか、彼女には判断が付かなかった。見詰められたアリスは、曖昧な笑みを浮かべている。
「……そんな感じかもね」
 ため息を吐いて、奈々子は手帳を見直した。
 『構造体』で生まれた大シンボルは、何らかのイメージから作られている。まさに「象徴」なわけね。もし、そのイメージが人間の思考から直接得ているものだとしたら、そのために使用している物は……
 ある可能性を考え、奈々子は探し物を見つけたかのように笑みを浮かべた。
「なるほどね」
「何がかしら?」
 そんな奈々子を、アリスは訝しげに見た。
「何でもないわ。あと1つ聞きたいんだけど、大シンボルはどうして人間社会に?」
「色々だわ」
 アリスの持つスプーンが、溶け始めたジェラートを叩く。
「本当は、シンボルの役目は『構造体』を守ることなんだけど、みんな勝手にどっか行っちゃうの。別の『構造体』に行くのも多いけど、何処行ったか分からないのもたくさんいるわ」
「それはやっぱり、10年位前から」
「ええ、その通りだわ。それまで出れなかったから」
 10年前、魔力が出現した時期と一致。大気中のエーテルが増え始めた時期と一致。『構造体』が活動し始めたのは10年前と、そう考えて間違いは無い。
 アリスに対して行った生物学的な検査によると、アリスは人間と遺伝子に差異があり、骨格に至っては機械のようでもあったそうだ。人類の技術を越えた、人外の生物工学による代物。
 さらに、エーテルに対する2つの特徴があった。
 1つは体内のエーテル含有量の異常な値。人間の体内にもエーテルは含まれているが、アリスの量はその比では無かった。もう1つは、人間にとっての酸素同様、エーテルを生命活動に必要としている点である。エーテルの濃度が低い環境において、アリスの脈拍などに変化が見られた。今日の実験においてアリスは身体に不調を感じていたことからも、アリスにとってエーテルは必要不可欠な物質であるのだろう。
 それはきっと、他の大シンボルにとっても――
「エーテルが放出されたから外に出たのか、それとも外に出るためにエーテルを放出したのか」
 スプーンを舐めていたアリスが、その言葉に反応した。
「うんと、『構造体』はそんなに自由に動かせないの。だから10年位前にエーテルを出し始めたとき、みんな大喜びだったわ」
「それ、本当?」
「本当だわ」 
 大シンボルには『構造体』のコントロールが出来ない。奈々子はそのことを手帳に記し、下線を引いた。これが事実なら、重大な事実である。彼女はそう判断した。
 奈々子が手帳からアリスに目を移すと、アリスはしょぼくれた表情をしていた。
「……話をしすぎたわ。溶けてる」
 アリスが3つ目のデザートを見ながら言った。チョコレートジェラートが、皿に茶色い水溜りを作り始めていた。
「あ、ごめん。それじゃあ、今日はこの辺にしとくわ」
 奈々子は手帳とペンを仕舞った。一方のアリスは、デザートから目を離さない。
「うーん」
 アリスがいやにそのデザートを見詰めるので、奈々子もそれに目をやった。すると、デザートの表面に白い結晶が現れ始めた。氷の結晶である。
「ちょっと、止めてよ」
 奈々子は眉間に皺を寄せた。アリスが使用したのは、熱量減少。5つの魔力の中では最も難しく、利用できる局面も少ない。
「無許可の魔力使用は軽犯罪だって、前に言ったでしょ」
 奈々子は小声でささやくが、アリスの耳には入っていないようだった。
 再び凍ったジェラートに、アリスは笑顔でスプーンを突き入れた。

 次→第2章「夜空にて」 Part1

スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://longstraight.blog79.fc2.com/tb.php/392-49601a0a
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

 | HOME | 

FC2Ad

 

『Respective Tribute』

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

リンク

このブログをリンクに追加する

プロフィール

kuroron

Author:kuroron
黒髪ロングストレート好きの20代メンヘラです

目撃者数

 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。