不思議の国の軟体鉱物

2017-10

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『Respective Tribute』 第2章「夜空にて」 Part1

 前→第1章「魔力少女」Part4

 部屋に戻ったアリスはカーディガンとバッグを床に投げ捨て、ベッドに倒れ込む。うつ伏せのまま、しばしの間だけ目を閉じた。
 意味も無く唸り、そして起き上がろうとする。
 やめた。
 アリスはそのままの体勢で身体を宙に浮かした。魔力による加速度発生によって、彼女の身体は地面と平行のまま、奇術のように空中で静止する。そのまま身体を縦に90度回転させ、直立の体勢に。そしてバスルームの前まで空中浮遊し、魔力で開けたドアをくぐる。
 そこまで来てアリスは加速度の発生を止め、床に足を降ろす。普通に起き上がり、歩いて、ドアを開けた方がまだ楽だったことに気付いたためだ。
 アイボリーのワンピースと下着類を洗濯カゴに放り込み、浴室に入る。アリスは浴槽近くのスイッチを押し、続いてバルブを捻った。湯が張られ始め、シャワーが噴射される。
 金色の髪を洗浄しながら、アリスは奈々子のことを思い返していた。奈々子は時折、アリスを検査に連れて行く。身体のサイズや身体機能を測る時もあれば、今日のように魔力について検査することもあった。
 奈々子と出会って、日本に来て、もう3ヶ月。流石に検査にも飽きてきたわ。どうして検査するのかって聞いても、奈々子は「仕事なのよ」としか答えてくれなかったし、いまいち面白くないわ。
 奈々子の職業もよく分からない。でも国家公務員であることは前に聞いた。国のために働く仕事で、ということはあの検査は国のためなのかしら。
 浴槽のお湯が溜まったことを音声が知らせる。アリスはシャワーを止めた。
 なんにしても、つまらないわ。
 浴槽で脚を伸ばしながら、アリスは物思う。
 奈々子が嫌いなわけじゃない。色々と世話してくれたもの、嫌いになれるわけがないわ。この部屋も、ケータイも、お金も。みんな奈々子がくれた。だけど、なにかしら。やっぱり少し、不自由だわ。
 外は歩ける。買い物も出来るわ。映画も見れる。食事も出来る。ウェブも見れる。でも、ウェブで買い物は出来ない。苗字と名前が必要なものには手を付けられない。苗字なんて、無いから。奈々子が言うには、戸籍が無いからあまり派手なことはしないで、ですって。それが無いと、自分が誰だか証明出来ないみたい。
 おかしいわ。人間は複雑だから、おかしいのよ。
 何だか良くわからないけど私には出来ないことが多くて、何だか良くわからないけど人間には私に無いものがある。ホント、何だか良くわからないことだらけ。
 まるで不思議の国だわ。奈々子について行ったら、変なことばかりの世界。もちろん素敵なものもあるのだけれど、変なルールが邪魔をしてる。きっともっと、楽しいことがある。でも触れないんだわ。不思議の国の住人じゃなければ、それには触れない。
 アリスは左足を揚げる。銀色のリングが、足首で鈍く光る。彼女の足首よりわずかに大きく作られたそれは、奈々子から外さないように言われたもの。まるで首輪のようで、アリスは少し不愉快だった。
 つまらない。ええ、つまらないわ。
 
 浴室から出たアリスはバスタオルを巻き、別のタオルで頭を拭いた。水分を拭けば、艶だけが残る。決して失われない艶。彼女の髪はそう造られていた。
 髪の水気を取り終えたアリスは居間に戻り、床に脱ぎ捨てていたカーディガンを洗濯カゴに放り込んだ。そしてベッドの上で仰向けになる。天井の明かりを見つめながら、アリスはため息を吐いた。まるで奈々子のように。
 身体を起こし、クローゼットから下着と「いつもの服」を出す。それらに着替えてから、アリスは床に置きっぱなしのバッグを持ってデスクに向かう。デスクは低いテーブルを挟んでベッドの反対側にあり、その上にはウェブ端末があった。
 アリスはデスクの空いているスペースにバッグを落とした。その反動でバッグから携帯端末が転げ、床に落ちる。
 しゃがんでそれを拾うアリス。そしてふと、忘れかけていたあることを思い出した。

 食事の後、奈々子はアリスの住むマンションの前で車を停めた。
「いつもありがとう。それじゃあ、お休みなさい」
「待って」
 車を降りようとするアリスを、奈々子が制止した。
「アリス、貴女最近、空中散歩はしてる?」
 奈々子の言葉にアリスはびくっ、と身体を反応させてしまう。
「飛んでるのね、まだ」
「……ごめんなさい」
「怒っているわけじゃないわ。夜なら見つかり難いでしょうし、高い場所なら尚更」
 俯いていたアリスは、上目遣いに奈々子の顔を見た。怒っていないことを確認し、顔を上げる。
「今日はちょっと、人探しをして欲しいの」
 そう言って奈々子は、自分の携帯端末を操作し、画像を表示させる。
「これ。もし空で見かけたら、連絡して」
 奈々子の携帯端末には日本で無い何処かの街の雑踏が映っており、焦点は真ん中の女性に合わさっていた。灰色の短髪。外見年齢は20代。
「髪の色は違うかもしれないから、注意して。一応、貴女のケータイにも画像送るわね」
 画像ファイルが転送され、アリスの携帯端末が音を鳴らした。
「OK。人探しと言っても簡単には見つからないと思うし、一所懸命探す必要は無いから。偶然見かけたら、知らせて」
「この人……誰かしら?」
 アリスは自分の携帯端末で画像ファイルを開き、目を細めてその女性を見つめる。
「気にしないで。もし見つけたら、教えてあげる」
「むぅ……分かったわ。がんばってみる」

 拾い上げた携帯端末を動かし、アリスはその画像を表示させた。
 奈々子が言うには、空にいるみたい。ということは、魔導士というわけね。空が飛べるんだから、それなりに強い。もしかしたら、私と同じようにスカウトする気かしら。もしそうなら、仲間が増える。楽しくなるわ。
 アリスは想像に胸を躍らせながら、携帯端末をポケットに入れた。そして部屋の明かりを消し、玄関から外に出る。目指すは屋上。誰にも見られずに、誰も手の届かない上空へ飛べる。屋上は空への入口だった。
 屋上に上がり、アリスは両手を広げた。全身で風を確かめる。髪を揺らす程度、無風に近かった。そして、彼女はふわりと上昇する。いつもの服――水色と白のエプロンドレスを着て、リボン付きのカチューシャを付け、屋上の上へ、ビル街の上へ、東京の上へと。

 次→「夜空にて」 Part2

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