不思議の国の軟体鉱物

2017-09

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『Respective Tribute』 第2章「夜空にて」 Part4

 前→「夜空にて」 Part3

「ちょっと待ってね」
 奈々子はバッグからノート型の端末を取り出し、電源を入れる。
「名前はホンシア。シンガポール出身の狙撃手よ」
 そう言いながら奈々子は端末を操作し、件の女性のプロフィールを表示する。「周紅霞」という大きな文字の下に制服姿の少女の写真と、昨日アリスに見せたものと同じ写真があった。
「力のある魔導士で、魔力を利用した狙撃を行っているのが特徴。今までに十数件の暗殺を行ったと見られてるわ」
「悪い人ってことかしら」
「そうよ」
 アリスは奈々子の膝の上に乗った端末に顔を近づけている。顔をしかめながら、画面の文字を読んでいるようだ。
「このホンシアが2週間前、日本に入国したの。そのホンシアによる殺人と思われる事件が2件、先週と昨日に行われてる」
 奈々子は端末を操作し、東京都内の地図を表示された。しかめ面をさらに近づけて、アリスが画面上に現れた地図を見る。彼女の顔に邪魔されながら、奈々子は昨夜の事件発生時刻とその時間のアリスの位置を確認する。アリスの左足は、事件現場からわずかに離れた場所にあった。
「やっぱり貴女の目の前で殺ってるわね……」
「この地図で私の居場所が分かるの?」
 アリスが尋ねるが、奈々子は答えなかった。
 アリスの左足首に着けられたリング。それが発信機になっていることに本人は気付いていないようで、その鈍さは奈々子の期待通りだった。気付いていない以上、言う必要も無い。だから奈々子は答えない。
 その代わりに、彼女はある事を尋ねることにした。
「ねぇ、アリス」
 アリスは首を回し、奈々子の顔を見る。その顔を奈々子は見つめ返し、言った。
「魔導士はどこまで自由に、空を飛べるのかな」
「どこまでって……どういう意味かしら?」
「うまく言葉に出来ないんだけど」
 曖昧さを補うために、奈々子は右手の人差し指をピンと立てる。
「飛ぶ時にさ、こういう風にゆらゆらしちゃうのか」
 奈々子は右手全体を左右に揺らした。不安定に飛行する魔導士を表現しているつもりだった。
「それとも、空中に固定されるのか」
 右手の震えを止め、奈々子はアリスの目を覗き込む。
 アリスの青い眼球は作り物のように綺麗である。その無垢な眼が物思い、わずかに陰る。時折見せるそんな瞳の動きを、奈々子は好んでいた。
「うーん、人にもよるんだけど」
 アリスは手元のお菓子箱を宙に浮かす。
「ちょっとこれ、押してみてくれないかしら」
 突然の行動に戸惑いつつも、奈々子は言われた通りに箱を指で突付いた。紙製の箱を指で動かせないわけは無い。しかしアリスが浮かした箱は、奈々子が加えた力にびくともしなかった。紙箱がまるで岩のように重く感じるほど、空中で完全に固定されていた。
「すごいわね……」
 何人かの魔導士と面識のある奈々子も、その力を直に体験するのは初めてだった。
「意識できれば大丈夫なのよ。だけど、突然なのは駄目ね」
 そう言って、アリスは目を閉じる。
「好きなタイミングで押してみてくれないかしら」
 奈々子は突き出した指を箱の直前で止め、2秒ほど待った後でさらに突き出した。箱は何の抵抗も無く押し出され、アリスの前を滑るように移動する。
 アリスがゆっくりと眼を開ける。すると箱の動きは停止し、奈々子の指では動かせなくなった。
「他の力を意識できるかどうかが重要なの。自分の魔力だけならちゃんと飛べるけど、急に強い風が吹くと全然駄目だわ。何かに驚いた時もちょっとだけ、ふらふらってするし。大事なのはアレかしら、せいしんしゅうちゅう?」
「なるほどね……ということは」
 奈々子がキーを叩くと、端末の画面に過去の気象情報が現れた。
「ホンシアが行動を起こした日の風速……やっぱりほとんど無い。昨日も風は無かったわよね」
「ええ、とっても飛びやすい日だったわ」
「飛びやすい日ね。これで予測が立てられそう」
 風速何メートルまでを飛びやすい日としているか、過去の事件の記録からではホンシアの基準は分からない。だけど、少なくとも明らかに風の強い日は行動しないだろう。ビル街の上空なら尚更である。
「ねぇ、奈々子」
 奈々子の言葉に何か引っかかったのか、腑に落ちない表情をしていたアリスが口を開いた。
「奈々子は、このホンシアに何か用があるのかしら」
「ええ、あるわ」
「だったらそのために、私に何をさせたいのか、ちゃんと言って欲しいわ」
 不機嫌になりつつあるアリスを見て、少しはぐらかし過ぎたかなと、奈々子は自分の失敗を感じた。
 強力な魔導士であるホンシアと接触するのにアリスの協力は不可欠であるが、そのアリスが下手に作戦内容を知っているとホンシアに警戒される恐れがあった。しかしこれ以上機嫌を損ねないためにも、そろそろ今回の作戦についてしっかりと話すべきかも知れない。
 奈々子はそう結論し、アリスの頭でも分かりやすいであろう言葉を選び、言った。

 次→「夜空にて」 Part5

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