不思議の国の軟体鉱物

2017-10

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『Respective Tribute』 第2章「夜空にて」 Part7

 前→「夜空にて」 Part6

「ホンシアが16歳の時、魔導士の認定を取るために受けた検査のデータよ。使える魔力の種類は、加速度発生のみ。この時点でもかなり強いけど……」
 魔導士の認定検査は、魔力発生の資質をある程度持つ者ならばそのほとんどが受けている。公的な認定を受けることで特定の状況においての魔力の使用が許可され、魔力を利用した各種職業の試験を受けることが出来るためだ。
 その検査データによると、ホンシアの加速度発生能力は人間2人を宙に浮かすことも十分に可能であり、それは高層ビルの火災や災害などで救助が困難な場所に取り残された人間を救う特殊救助隊員として彼女が活躍出来たことを示している。
 だが、彼女は正反対の道を行った。よくある話だった。
「たとえ今現在、この1.2倍の力があってもアリスよりは低い……わね、かなり」
 奈々子が記憶の中にあるアリスの加速度と比べて、言った。アリスが魔力で発生する加速度はホンシアを凌駕している。人間以上を誇るアリスの身体能力、反応速度も考えると、相手は対応することもままならない。
 即ち、圧倒する。
「大丈夫、でしょ」
 アリスが微笑む。
「はぁ……分かった、認める。貴女なら傷一つ負わずにホンシアを捕まえられる。間違いないわ」
 さらに口元を緩ませるアリス。
「それで、武器はどうするの。拳銃くらいなら調達できるけど」
「武器なら心配ないわ。私も持ってるもの」
 そう言ってアリスは立ち上がり、クローゼットの中をがさごそと漁り始める。そして、漫画本や洋服の山から長い棒状の物体を発掘した。
「それって……」
 アリスが掲げた「それ」に、奈々子は目を丸くした。
 そういえば、アリスを日本に連れてくる時に「それ」のせいで手間取ったんだったわ。ただのガラクタだと思ったけど、アリスにとってはとても重要な物らしくて、だけど「それ」が一体何なのか、分からなかった。いや、一目瞭然とも言えたけど。
 それを形容すべき言葉は、1つしか無かったから。
 アリスが右手で高々とかざした「それ」は、赤と銀の2色で塗られ、一方の先端は扁平な爪、もう一方は直角に曲がり、先端には二股の爪があった。1m近いと思われる長い「それ」の表面には刻印がいくつもあり、その刻印だけが「それ」がただの工具とは何かが違うことを感じさせていた。
 だが、「それ」はまさしく『バールのようなもの』であった。
「結局、その『バールのようなもの』は……何?」
 訝しげな表情の奈々子に対し、アリスは自信たっぷりに言った。
「『バールのようなもの』よ」

 昼食を外で食べた後、アリスを部屋まで送り終えた奈々子。独り、車の中で背もたれに体重をかけながら、目を閉じた。
 それにしても、腑に落ちないわね。
 事件は2件、確かに起きている。だけどそれらの事件に関する報道は一切無い。世界的にテロ活動が増加しているとはいえ、日本では狙撃事件なんて滅多に起こらない大事件だ。それが報道されないとなると、やはり報道規制がかかっているのかも知れない。
 それよりも気になるのは、捜査班だけど。
 ホンシアと秘密裏に接触し、確保する。仮にも狙撃事件の犯人なのに、だ。捜査班と話がついているのが普通だけど、ウチの係が独自に判断したとも考えられる。
 前者だとしたら、報道がされないのは捜査班がこちらのホンシア確保に協力しているからだろう。確保した後、魔導士として運用することを考えると、事件は無かったことにすべきであるから。そう考えると一見、辻褄が合いそうだが、だとしたらこんな重大な任務をアリスだけに任せるのは不自然過ぎる。
 かといって後者だとしたら、謎が多すぎる。報道規制の謎、捜査班との関係の謎、そしてやはり、アリスに任せるという判断の謎。どう考えても、アリスだけに任せるべき任務では無い。
 そこに何か思惑があると考えるべき。奈々子はそう結論付けた。
 何よりこの事件、ホンシアの行動にも不可解な点がある。過去の事件は企業幹部など、大物を狙った事件ばかりだったのに、今回の事件の場合はただの会社員、本当に何の変哲も無い2人の人間を殺している。しかも2人の被害者には共通点が全くと言って無い。アリスが目撃していなければ、別の犯人を疑っても良いくらいだった。
 被疑者の目的、報道がされない理由、確保任務の不可解さ。こんな怪しい任務にアリスを巻き込んだことは、やはり失敗だったかも。たとえ命令だとしても、これだけ不審な点があれば断ることも出来たはずだわ。
 摩天楼の上に浮かぶ、亡霊のような魔導狙撃手、シュウ・ホンシア。もしかしたら、彼女に興味を抱き過ぎたのかも知れないわね。
 奈々子は自嘲気味に笑い、目を開けた。
 過ぎたことはどうでも良い。それよりも、この件に関して調べることが重要だわ。捜査班に関すること。報道規制は誰が行っているのか。それと、上司の動きも。ホンシアの目的も、もしかしたらその辺りから分かるかもしれない。どうせ魔力犯罪係なんて暇なことこの上ないんだから、時間は充分にある。アリスの危険を減らすためにも、何が起こっているかはちゃんと把握しないとね。
 奈々子は車のエンジンを始動させ、アクセルを踏む。発車などの一部の動作は自動運転で行える車だが、奈々子はそんなものは使わない。
 自分の周りにあるものくらいは、せめて自分の好きなように。
 自分が納得出来るように。

 次→第3章「再会」 Part1

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