不思議の国の軟体鉱物

2017-08

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『Respective Tribute』 第3章「再会」 Part1

 前→第2章「夜空にて」 Part7

 その夜のアリスは、テレビの野球中継を見ながら軽い夕食を済ませた。
 故郷である『構造体』から出た後に簡単な料理は覚えたものの、レシピ通りに作れることもあまり無く、つまりは料理が下手だった。それでも今日の野菜炒めは美味しい方だったと、彼女は自己評価した。
 食器を適当に洗い、アリスはベッドに腰掛ける。テレビでは青い縦縞のユニフォームを着たバッターが力強いスイングでボールを打ち、彼方へと飛ばす光景が映されていた。それをぼんやりと見ていたアリスは妙な衝動に駆られ、握りこぶしを作ってバッターのフォームを真似し始める。手首と腕と肩に力を込め、彼女は架空の棒を2回、3回と振るった。
 自分のフォームに満足出来た彼女はテレビを消し、ベッドの上で仰向けに倒れる。
 これから服を着替えて、それでホンシアを探しに行かないと。
 アリスはホンシアの故郷、シンガポールの事を思う。シンガポールについてウェブで調べたアリスだったが、東京との違いが分からないというのが彼女の感想だった。ただ、ライオンが有名であるということだけは印象に残った。
 ライオン。猛獣。ホンシアもライオンなのかしら。でもライオンというよりは鳥みたいだったわ。鷹みたいな。
 アリスはシンガポールのビル街を舞う、ホンシアの姿を想像した。高層建築物の森で育った猛禽。両親が死んだ事によって巣立ち、また森に戻ってきた。今度の森は東京。故郷を思い出すような極東の摩天楼。
 鷹と形容したホンシアに対して、自分自身は何なのか。アリスは考え始める。
 その鷹を捕まえるんだから、私は狩人かしら。だけどそんな怖そうなのじゃなくて、鳥よりも自由で、かわいいのが良いわ。でもそんなもの、あるのかしら。
 時折アリスは自分を何かに例えようとして、色々と考えることがあった。しかし、いつも良い例えが浮かばずに同じ結論へと辿り着く。
 私はやっぱり、私だわ、と。

 昨日と同じ服を着て、アリスは『不思議の国のアリス』となって空に舞った。風は穏やかで、昨日と何もかも同じ。ただ違うのは、凶器を秘めていることだけ。
 発光ダイオードと蛍光灯に輝く人工の森を眼下に見下ろし、アリスはどこへ飛ぼうかと辺りを見回しながら考える。
 昨日は偶然会うことが出来たけど、今日はどうかしら。もし会えるとしたら、やっぱり昨日と同じ場所だと思うのだけれど。
 アリスはふと、「犯人は犯行現場に戻ってくる」という言葉を思い出す。ホンシアがいるとしたら犯行現場以外に無い、そう確信した彼女は昨日の現場に向かって加速度を発生させた。
 背中に隠した物が落ちないように、それを押さえ付ける力にも気を付けながら。

 確かにいるとするならこの場所だった。とはいえ、アリスはさほど期待していたわけでも無かった。
 だから昨日と同じように長い銃を持ったホンシアが見えた時、彼女は驚くと共に悪寒を感じた。
 今夜もあの銃を撃つのならば、一体、誰に向かって?
 アリスは奈々子が心配していたことを思い出す。あの時は大丈夫と言えたが、実際に目の前にするとやはり不安を覚えた。そして、奇妙な胸の高鳴りを感じた。
 次第に不安の感情とは別の何かが、彼女の鼓動を益々速めていく。脳裏に過ぎるのは、奈々子と出会う前の記憶。剣とバールのようなものが音を立てながら交差し、離れ、また交差し。そしてさらに昔の記憶。長い金髪、不敵な笑み。
 漂う不安と湧き出す闘志、そして嫌悪。複雑に絡み合った感情がアリスを縛り付け、慎重にさせる。静かに近づきながら、目はホンシアの一挙一動を見逃さずに。そしてアリスは撃たれること無く、ホンシアを攻撃射程に捉えた。
 ゆっくりと、ホンシアがアリスに視線を合わせる。
「や。また会ったね」
 片手を挙げてアリスに挨拶をするホンシア。
「昨日は驚かせちゃったかな。ごめんごめん」
 屈託の無い笑顔を見せる彼女を、アリスは油断せずに見つめる。何一つやましい事が無いような表情をしていても、相手は昨日、人を殺しているのだ。しかもこの場所で。
 なのに、この笑顔。油断出来なかった。
「まさか今日も会えるとは思わなかったよ」
「私も思わなかったわ」
「そりゃそうだよね。でも良かった、色々と話もしたかったから」
「何の話?」
「アナタの話。だって夜の空で知らない人に会ったのなんて初めてだし」
 それに気になる格好だったし、とホンシアは付け加えた。
「私の話……」
 アリスは相手の言葉を反芻する。
「そう。英語が通じるけど、やっぱりアメリカ出身とか?」
 アリスは首を振って否定する。
「アメリカじゃないわ。生まれたのは……」
 『構造体』の話は他人にするな。奈々子とそんな約束をしていたことを、アリスは思い出す。
「……秘密」
 だから、そう答えた。
「秘密ね。じゃあ私も秘密」
 微笑むホンシア。私は知ってるのだけれど、と思いながら、アリスも微笑んでしまう。
「日本には何しに? 留学?」
「えっと、お仕事よ」
「お仕事、ね」
 意味有りげに笑うホンシア。銃口は下を向いていた。
「飛ぶのが上手みたいだけど、他の魔力も使えるの?」
「ええ。壊したり切ったり、火をつけたり物を冷やしたりも出来るわ」
「全部出来るの?」
 驚いた表情を見せるホンシアに、若干アリスの緊張が緩む。
「そうよ、全部」
「凄いな……私は飛ぶのが精一杯」
「練習すれば出来るんじゃないかしら?」
「練習したんだけどね。全然駄目だった」
 ホンシアは笑いながら言った。
「それは残念だわ。楽しいのに」
「飛んでるだけでも楽しいけどね。あっ、そうだ」
 何を思いついたのか、ホンシアが声を上げる。

 次→「再会」 Part2

スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://longstraight.blog79.fc2.com/tb.php/400-ca1d2e0e
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

 | HOME | 

FC2Ad

 

『Respective Tribute』

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

リンク

このブログをリンクに追加する

プロフィール

kuroron

Author:kuroron
黒髪ロングストレート好きの20代メンヘラです

目撃者数

 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。