不思議の国の軟体鉱物

2017-08

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『Respective Tribute』 第3章「再会」 Part4

 前→「再会」 Part3

 湖に浮かぶように建つ休息所で、3人はテーブルを囲んでいた。
 湖に落ちないよう、柵がぐるりと張られた円形の床。そこに円柱が立ち並び、上には円形の屋根が乗っている。そしてテーブルも椅子も円形。真っ白な円で統一されたその場所からは、湖の全方位が見渡せた。
 静かにして幻想的な湖を望むための建築。だがアリスは、どうもこの建物が気に入らなかった。正確に言えば、湖も含めて。白を基調としたこの空間が全て、エルザがローエングリンのために作ったとしか思えなかったからだ。
 エルザ――アリスの暴撃で腫れたローエングリンの脚に包帯を巻く、栗毛色の髪の少女。肩まで伸びた髪は少し巻き気味であり、アリスのストレートに比べ幼くも見える。あどけなさと好奇心溢れる瞳の輝きは、まるで少女の心情を映し切っているようでもあった。
 やっぱり、私って邪魔なのかしら。 
 穏やかな微笑を浮かべつつローエングリンの手当てをするエルザを見ながら、アリスはそう思わずにはいられなかった。
 
 アリスが生まれ故郷を離れる際に、人間世界の案内役として付けられたのがローエングリンだった。ローエングリンに学ぶことで、人間に溶け込めるようになるだろう。そんなようなことを言われたアリスだったが、お目付け役として付けられた気がしてならなかった。
 ローエングリンとアリスは1年かけて世界の主要都市、いくつかの『構造体』を回った。その間、何度も立ち寄ったのがこの『構造体』、『トルソー』だった。
 『トルソー』は人間の胴体をモチーフにしたようにも見える、全長2500mの巨大建造物である。大部分はノルウェー海の底に埋もれており、アリスとローエングリンは入城する度に『トルソー』の潜水艦を使用する必要があった。位置も陸からは離れており、そこまでの手間をかけてまで何度も通う理由はアリスには存在しなかった。しかしローエングリンは『トルソー』を拠点とすることを命令されていたため、アリスも渋々付いて行く他無かったのである。

「ホントに、アリスったら乱暴なんだから」
 包帯を巻き終えたエルザが、アリスの方を向いて言った。
「悪いことをしたわ。ごめんなさい」
 そう言いながらも、微笑ましくエルザを見ていたアリスはつい、にやついた表情をしてしまった。
「本気で悪いと思っているようには見えないわ、もう」
 不満そうにエルザは言ったが、ローエングリンに向き直るとすぐに笑顔に戻った。そんなエルザの愛嬌が眩しいのだろうか、ローエングリンは無言だ。
 2人の姿を見ていると、アリスの口元は自然に緩まってしまう。片や命令に従い、世界を探索する白い騎士。片や愛らしさを纏い、天衣無縫な少女。大シンボル『守護の王』と、『トルソー』の城主。夢物語が現実の光景となっているような2人は、『夢の女王』であるアリスが望む世界を具現化していた。
 まるでおとぎ話の王子様とお姫様みたいだわ。この2人みたいに、世界がもっと素敵になれば良いのに。
 アリスはそう思いながらも、2人だけの世界に紛れ込んでしまったことに居心地の悪さも感じていた。もし湖の霧が無くて、空が青だったら。そしてこの建物が別の色だったら。私ももう少しは居やすくなるのかしら。そんなことを思う日も、時々あった。
「ここにはあと何日居るの?」
 エルザの問いに、ローエングリンはしばし沈黙した後、答えた。
「まだ決めていない。アリスが飽きる頃には出て行くつもりだが」
「もう飽きてるわよ」
 そもそも『構造体』の中が窮屈だから外に出たアリスだ。出来ればローエングリンだけここに置いて、自分独りで行きたかった。
 真面目なローエングリンは許してくれないでしょうけど。
「なら、もう外に出るか」
「……冗談よ。もう少しここに居たいわ」
 そう言うしかなかった。一瞬、エルザが不安な表情をしたから。
「ねぇ、ローエングリン。もう『女王』の命令なんて無視しちゃえば良いのよ。そうすれば外に出なくても良くなって、ここでゆっくり暮らせる。そうでしょ?」
 エルザの言葉の中の単語に、アリスは反応してしまう。
 『女王』――倒すべき相手。
「そういうわけには……行かない」
 静かに首を横に振ったローエングリン。
「聖杯なんて物が何処にあるかは分からないが、命令は命令だ。アリスの案内のついでにでも、やらなければならない」
「ついでだったら、やらなくても良いのに」
 アリスはわざと不機嫌そうに言った。
 ローエングリンが『女王』から下された命令、聖杯の探索。聖人の血を受けたその杯には神秘的な力があると、アリスはローエングリンから聞かされていた。だが、アリスにはさほど興味のある物では無かった。
 もし私が奪い取れたら、『女王』は嫌な顔をするのかしら。でもそんな物を探すより、ローエングリンにはエルザと居て欲しいわ。
「……正直な所、最近少し飽きてきた」
 ローエングリンの言葉に、アリスは少し驚いた。思い起こしてみれば、確かに近頃のローエングリンは人間都市に行っても外出せずに、ただ本を読んだり、外の景色を眺めたりと様子がおかしかった。
 あれはそう、聖杯探しがつまらなくなってきたって事だったのね。
 いつも「命令」で動いていたローエングリンがそのような感情を抱いていたことに、アリスは嬉しくなった。
「そうよね。やっぱり飽きちゃうわ」
 嬉しさを口元に現しながら、アリスはうんうんと頷く。
「それなら、今回はゆっくりしましょう。せめて暑い夏が終わるまで、のんびりと」
「そうだな……それも良いかも知れない」
 それを聞いたエルザは、「本当!?」とはしゃぎ出した。
「それならローエングリン、ここに居る間、外の世界のことをいっぱい聞かせて欲しいの。今までちょっとしか聞く時間が無かったから、お願い」
 優しく、しかしどこか寂しげに微笑むローエングリン。
「ああ。話なら語り尽くせない位、山ほどある」
 エルザは『トルソー』の城主。アリスやローエングリンのような大シンボルとは違い、外に出ることは出来ない。城主として、『トルソー』を守らなければならない。
 ここは少し退屈だけど、そんなエルザが喜んでくれるなら良いわ。退屈しのぎにはそうね、ローエングリンと勝負するのが一番ね。ローエングリンに負けてばかりなのも悔しいし、ここに居る間に勝てるようになりたいわ。それにもし勝てるようになったら、ローエングリンも何かお願いを聞いてくれるかも。そうしたらそうね、私独りで外の世界に行けるようにして貰って、ローエングリンにはずっと、エルザと一緒に居るように命令しちゃいましょう。
 それが良いわ、そうね、そうしましょう。

 次→「再会」 Part5

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