不思議の国の軟体鉱物

2017-10

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『Respective Tribute』 第3章「再会」 Part6

 前→「再会」 Part5

「どうして……ローエングリン……」
 北欧から遥か離れた東京の上空で、ローエングリンはアリスの放った一撃を妨げた。それはあたかも、アリスの想いを無下にするかのように。
 アリスと同じ高さまで上昇したローエングリンが、口を開く。
「……退いてくれ、アリス」
「何を言うのっ!」
 アリスは腕の力を強めた。共に旅し共に過ごした男が、エルザを守るという約束を果たしているはずの男が、こんな所でこんな事を。アリスにとって、それはあまりにも不愉快だった。
「『守護の王』が、1つの約束も守れないなんて……」
「……」
 ローエングリンは静かに剣を傾けた。彼の常套手段。受け流すための動作。
 が――
「させない!」
 アリスは言うと同時に、バールのようなものから右手を放し、加速させる。ローエングリンの顔面に高速の拳がめり込んだ。
「ぐっ……!」
 怯むローエングリンに対し、片手で持ったバールのようなもので第2撃。それを剣で跳ね返すと共に、後方に下がるローエングリン。
 2人の間に10m近い間合いが出来る。退避していたホンシアは、落ち着かない様子で2人の応酬を見つめている。
「女の子の足元から邪魔をするなんて、紳士のすることじゃないわ!」
 バールのようなものを突き付けるようにしてアリスが言った。さっきの拳撃により、右手がジンジンと痛む。
「拳を顔面に当てるなんて、女の子がすることじゃ無い」
 顔を右手で抑えながら、それでも剣を正面に構えるローエングリン。
「それだけ、気に入らないってことなのよ」
「……だろうな」
 その態度でさらに腹を立てたアリスは、魔力で全身を加速させる。風を切るスピードで振り下ろしたバールのようなものは、しかし両手で握られた剣によって受け止められた。
「相変わらず、単調さは拭えないな……」
「それはどうかしらっ!」
 アリスのつま先がローエングリンの腹部を蹴る。ローエングリンの顔が苦痛で歪むが、剣は緩まない。それどころか体勢を崩したアリスの隙を突き、バールのようなものをあっという間に押し返した。上から剣を押さえつけていたはずのバールのようなものは逆に剣によって押さえ付けられてしまい、アリスとローエングリンの顔は接するほどに近くなる。
「なかなかやるわね、流石だわ」
「……もう一度言う。退くんだ、アリス。お前と戦いたくは無い」
「叩きたくなるようなことをしたのは、そっちの方でしょっ!!」
 アリスの頭突きがローエングリンの額を潰す。自分への衝撃も考えて魔力による加速は行わなかったものの、ダメージはそれなりにあったようだ。バールのようなものは剣から解放され、アリスはそれを振り上げる。そして――
「動かないで」
 ホンシアの銃口が、アリスの後頭部に突きつけられた。
 アリスはバールのようなものを振り被ったまま静止し、自分の置かれた状況に冷や汗をかいた。ゆっくりと視線を下に向けると、ローエングリンの剣がいつの間にかアリスの胴に当てられている。ローエングリン自身は額に手を当て痛そうな表情をしているが、攻撃を外す確率は無い。
 万事休す、ってこういう事なのかしら。
 アリスの心を震えさせる何か、恐れが。驚きでもなく、不安でもなく、死を予感させる直接的な恐怖。とても久しぶりな、あの時以来の恐怖。
 そしてあの時と同じように、恐怖を与えた当の本人がそれを否定した。
「ホンシア、銃を下ろせ」
 ローエングリンが命令する。
「でも……」
 ホンシアは不服そうな声で言った。銃を下ろした途端に逆襲される可能性があると考え、それを警戒しているのだろうか。
「大丈夫だ、下ろせ」
 ホンシアは銃を下ろした。アリスは振り上げた武器をそのまま、何もしない。
「アリス、さっきも言ったように、戦うつもりは無いんだ」
 ローエングリンも剣を下ろす。アリスはまだ、動かない。
「だから、お前も下ろせ」
 アリスはしばしの間、睨むようにローエングリンの顔を見つめた後、ゆっくりとバールのようなものを下ろした。
「それで、一体どういうことなのかしら」
 聞きたいことは山ほどあった。ここで何をしているのか。どうしてこんな所にいるのか。ホンシアとどういう関係なのか。
 そして、約束は。
「……『女王』の命令なのかしら」
 一番可能性のある考えを、アリスは口にした。するとローエングリンは数秒黙った後、静かに頷いた。
「……ああ」
 アリスは眉間に皺を寄せ、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「私との約束より、エルザより大切なのね」
「……」
 ローエングリンは答えない。
「どうなの。答えなさい、ローエングリンッ!」
 再びアリスの内に怒りが込み上げる。アリスの大声に驚いたのか、ホンシアがライフルを構えた。
「やめろ、ホンシア」
 ローエングリンが制す。渋々そうに、ホンシアは銃を下ろした。
「アリス、お前との約束が守れなかったこと、それは謝る。だが、これは重要な任務なんだ。とても、重要な」
「重要、一体何が重要なのかしら」
「言うことは出来ない。それほどに、重要だ」
「私には、何も言えないってことね」
「……その通りだ。お前には何も話すことは出来ない」
「子供騙しだわ」
 アリスは次第に悲しくなってきた。
 別れる前の態度も嫌だったけど、今の態度はもっと嫌だわ。そんな理由で、何が納得できるというの?
「白かった髪も、白かった服も、全部汚して……」
 その姿が、貴方の本性なのかしら。そう続けようとして、アリスは言えなかった。
「この国では、あの姿はあまりに目立ちすぎる。紛れるためには髪も染める必要があった」
「何もかも……全部変わったってことね」
 もう、私の知ってるローエングリンはいない、いいえ、違うわ。私の思っていたローエングリンは、エルザと共にいたローエングリンは、きっとほんの一面に過ぎなくて。結局、『女王』の犬なのね。ローエングリンは『女王』の騎士なのね。『女王』のためなら、姿形も変えてみせる。それが、本性。
 もう、いいわ。
「……分かったわ」
 アリスは静かにローエングリンから背を向ける。
「さよなら」
 アリスは飛ぶ。自分の部屋、居場所に向かって。突然の再会、突然の失望。受け入れたくなかったのかも知れない。引き止めて欲しかったのかも知れない。
 だからいつもよりも、速度が出ない。
 一体エルザになんて言えば良いのかしら。今もローエングリンの帰りを待っている、あの子に。きっと、何も言えないわ。ローエングリンの本性を知った今は、何も言えないし、会うことなんて、出来ないわ。
 泣きたくなるのを堪えながら、アリスは何故か、奈々子の笑顔を思い浮かべてしまう。
 今は、どうしてかしら。あの顔が懐かしくて、暖かくて……

 次→「再会」 Part7

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