不思議の国の軟体鉱物

2017-10

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『Respective Tribute』 第3章「再会」 Part7

 前→「再会」 Part6

「良いの?」
 ホンシアが飛び去るアリスを見つめながら言った。
「……」
 ローエングリンは答えない。
「しょうがないなぁ」
 そう言って、ホンシアは飛び立とうとする。
「どこへ行く」
 ローエングリンの制止にホンシアは振り返った。
「あの子、放っておけないでしょ」
「……駄目だ」
 ローエングリンの表情を見て、ホンシアが呆れたようなため息を吐く。
「アナタ、何かに必死に耐えてるみたいに見えるけど、それで良いの?」
「あいつを巻き込みたくは無い」
「もう充分巻き込んでると思うけどね」
 ホンシアは前に向き直り、アリスの飛び去った方角へ加速する。1人残されたローエングリンは、ただその姿を見つめるだけだった。

 ローエングリン、エルザ、奈々子。3人の顔が頭の中で代わる代わる浮かび、ついにアリスは空中で立ち止まり、泣いてしまった。悲しくて、悔しくて、泣き虫なアリスは。
 生まれ故郷を捨てたアリスにとって、ローエングリンとエルザがいた『トルソー』は帰れる場所だったのだ。少し居心地が悪くても、そこはアリスが居ても良い場所。3人で居た時間は、掛け替えの無いものだった。
 悲しいのはきっと、ローエングリンが約束を破ったからじゃない。もう、あの時間には戻れないって、気付いたから。ローエングリンがあの『女王』をエルザよりも優先したのなら、あの風景を、あの一時を、私はどう信じればいいの?
 裏切られたのは私じゃなくて、あの日々。ローエングリンは汚したのよ、あの世界を。
 でも、どうしようもない。
 どうしようもなくて、アリスは泣いた。泣いて、泣いて、泣き続けて。
 そして、差し出された。
「……?」
 顔を上げると、ホンシアがハンカチを差し出していた。
「ハンカチくらい持ってないと。女のたしなみ以前のことでしょ」
 さっきまでローエングリンと一緒にいた、敵――ホンシアが、少しだけ恥ずかしそうに言った。
「……ひっく、うぅ……ありがとう」
 相手は敵。『女王』の命令で動くローエングリンに協力しているのだから。
 だけど、でも。
「まったく、ひどい男だよね」
 話してしまえば、きっと楽になれる。
「あんな人だったなんて、思わなかったわ」
 ハンカチで涙を拭いながら、愚痴を溢すようにアリスが言った。
「そりゃ、久しぶりに会った知り合いにあの態度じゃねぇ……」
 ホンシアは一呼吸置いてから、慎重さが感じられる声調でこう切り出した。
「ローエングリンと……どういう関係?」
 アリスはハンカチを右目、左目と当て、胸のつかえを下ろそうと息を吐いた。
「友達……いいえ、先生と生徒……兄と妹みたいなものだったのかも知れないわ」
「やっぱり深い関係だったわけね」
「そうね……ええ、きっとそうだわ」
 旅した時間。エルザの湖での記憶。時間と記憶、その多さが、深さ。
「なのに事情もろくに話さないで追い返すなんて、ホント最低だね」
「最低よ……」
 再びこぼれ出す涙を拭いながら、嗚咽のように吐き捨てる。
「でもさ……」
 意味有り気に言葉を切るホンシア。アリスは顔を上げ、その顔を見る。
「でも……何かしら?」
 何か思う所があるのか、ホンシアはアリスの顔をじっと見つめた後、右人差し指を立てた。
「1つだけ、お願いがあるんだけど」
「……どんなお願い、かしら」
「もうさっきみたいに、不意打ちで私を襲わないこと。このお願い聞いてくれるなら、良いこと教えたげる」
「良いこと……?」
 良いことなんて、あるのかしら。こんなに泣かされた後で、一体、どんな?
 きっと無いと、アリスは思った。それでも、彼女は頷いていた。優しい人の優しい言葉を断れるほど、涙が乾いていないから。
「交渉成立ね。じゃあ、教える」
 ホンシアは不敵に笑い、こう言った。
「ローエングリンは、『女王』の命令なんかで動いてはいない」

 次→「再会」 Part8

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