不思議の国の軟体鉱物

2017-09

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『Respective Tribute』 第3章「再会」 Part9

 前→「再会」 Part8

 ホンシアへ帰還する旨を連絡したローエングリンは一人、ビルの屋上で佇む。
 東京の夜は輝きに溢れている。それでも、夜を掻き消すほどでは無い。街の明かりは照らしたいものがあるからこそ灯るのであって、夜を昼にするためにあるのでは無い。照らされぬものは幾億もある。ホンシアもローエングリンもアリスも、照らされてはいない。 だからこそ、戦えるのだ。
 ローエングリンは携帯端末で自分の雇い主へと接続する。彼と出会えたのは幸運だったと、ローエングリンは雇い主と言葉を交わす度に思う。理由は違えど自分の目的に賛同してくれ、協力を惜しまないその男。むしろ、協力しているのはローエングリンの方かも知れなかった。
 『構造体』で生まれたシンボル達は皆、人間に対しての敬意を刷り込まれていた。だがそれとは異なる畏敬の念を、ローエングリンは雇い主に抱きつつあった。シンボルが刷り込まれた敬意は人間の想像力の豊かさに対してのものだと彼は聞いていたが、その彼が雇い主に抱いたのは強さに対する敬意だった。
 老齢に差し掛かるのも間近であるというのに肉体の鍛錬を怠らず、魔力も強力だった。だがそれ以上に、自分の命を引き換えにしてでも目的を達しようというその意志が尊敬に値した。
 ローエングリンはまだ、その覚悟を決めていなかったから。
 雇い主との回線が繋がり、尊ぶべき声が聞こえてきた。
「首尾はどうだ、ローエングリン」
 自信の滲み出た、それでいて落ち着いた声。ローエングリンは時折、その声が『女王』の声に似ていると感じていた。だが『女王』の声に感じた威圧感が、雇い主の声には無い。それは厳格な主従関係が無い故なのか。
「やはり、ホンシアが出会ったのはアリス……私の古い友人でした」
 ローエングリンが今日この場所へホンシアと共に来たのは、それを確かめるためだった。ホンシアが「不思議の国のアリスそっくりの魔導士」を目撃したと聞いたローエングリンは、それが日本に旅立ったアリスだと判断し、雇い主にその事を話した。すると、出来ることなら計画に参加させたいという意見と共に、再度現れる可能性があるのでホンシアと共にアリスが現れた現場で待て、という命令が下された。
 その思惑通り、アリスは現れた。
「そうか、会えたのだな」
 驚きの感じられない雇い主の声。ローエングリンはそれが気になった。
「それで、だ。協力してくれそうかな、彼女は」
「いえ。恐らくは何者かの刺客でしょう。我々の行動が既に感付かれているか……何にせよ、協力は仰げないでしょう」
「刺客か。だがそう考えると妙だと思わないか。ターゲットとの接触が不用意かつ無意味すぎる。再度接触を試みたのはな、ローエングリン。お前の友人だからという理由だけでは無く、刺客としては軽率すぎる彼女が、明確な害意を持った者ではないと判断したからだ」
「ですが、結局は……」
 言いかけて、ローエングリンは雇い主の声に悪戯めいた含みがあることに気付く。
「まさか、貴方の差し金ですか」
「いかにも」
 悪びれる様子も無い、ニヤリとした表情を感じさせる声で雇い主は言った。
「何故、そのようなことを」
 冷静な調子で口に出したが、ローエングリンは内心不快に感じていた。危うくホンシアが殺害される所だったのだから、当然である。何故アリスにホンシアを襲わせたのか、彼は納得できる理由を欲した。
「正規の手続きで借りる事は出来ないからな。ホンシアの捕獲命令を与えることでお前と接触させ、そしてこちら側に協力させる算段だった」
「捕獲命令?」
 その単語に、ローエングリンは面食らった。
「殺害では」
「いや、捕獲命令だが。それほどに乱暴だったのか、彼女は」
 ローエングリンはあの時の光景を思い出しながら、思索する。
 ホンシアに対するアリスの一撃、あれは明らかに人間を殺しうる速度だった。だが、「あの」アリスのことだ。人間を殺す加減と、痛めつける加減。その加減がままならないと考えても何ら不思議は無い。むしろ猪突猛進とも言えるアリスには、峰打ちのような繊細さを求められる攻撃など出来そうに無かった。
 そんなアリスなら捕獲が殺害になりうるだろう、ローエングリンはそう結論した。
「私の思い違いでした。失礼しました」
 端末越しに雇い主の、年齢を感じさせる笑い声が聞こえて来る。
「やはり乱暴者か、彼女は。何とも頼もしいな」
「いえ、厄介なだけです。やはり彼女を引き入れることは、あまりにも不安定要素が多――」
「ローエングリン」
 雇い主が言葉を遮る。僅かな沈黙の中で、夜風が強くなりだした。
「彼女を巻き込みたく無い気持ちは分かる。だが、既に彼女は巻き込まれている。ならば、しっかりと事情を説明した上で、彼女の意思を尊重すべきではないか?」
「……ホンシアにも、同じようなことを言われました」
「そうか……」
 再び訪れた沈黙の中、ローエングリンはアリスが去った方角の空を見た。アリスもホンシアも、飛ぶものは何一つ見えない。
 雇い主のため息が聞こえ、声が続いてきた。
「彼女を巻き込んだのは、私だ。私を憎らしく思っても良い。軽蔑の眼差しにも耐えよう。私は、何としても成功させたいのだ。どうなろうと、何をしようと、だ」
「分かっています」
 口に出してみたものの、同意する感情はローエングリンの中に無かった。
「……アリスの説得はホンシアに任せる。お前には現在の状況を調べて欲しいのだ。狙撃は2回で充分なのか、それともまだ行う必要があるのか。それらの動向を調べ、報告を頼む。うまく誘き寄せられることが出来るかどうかが、鍵なのだから」
「了解しました。可能な限りの情報を収集します」
「頼んだぞ」
 そう言われ、雇い主との通話は終了した。
 ローエングリンは携帯端末を持った自分の手が震えていることに気付いた。顔もきっと、険しいだろう。自分の中の不安が、露呈しているのだ。
 雇い主に対する忠誠は揺らいでいない。彼の言うことがもっともであることを、ローエングリンは理解している。それでも、アリスを計画の一員として誘いたくは無かった。自分を不安にさせる予感、絶望的に拭えない予感があるから。この計画がその予感へと繋がっている以上、彼は何としてでもアリスを近寄らせたくは無いのだ。
 彼は、ローエングリンは予感していた。
 雇い主との計画は失敗し、誰一人生き残れないことを。

 次→第4章「紅霞の向こう」 Part1

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