不思議の国の軟体鉱物

2017-05

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『Respective Tribute』 第4章「紅霞の向こう」 Part1

 前→第3章「再会」 Part9

 アリスとローエングリンの再会、その3日後の夕方。奈々子がアリスの部屋を訪れた。
「どう、ホンシアとは会えた?」
 奈々子は部屋に上がるなり冷蔵庫を開け、缶ジュースを取り出す。
「あっ、それはダメ。それは私が飲もうと思っていた物なのよ」
 アリスが止めるのも聞かず、奈々子は缶ジュースを開け、飲み始めた。
「私から給料貰っているのも同然でしょ。だから、これくらいは許してよ」
「むぅ……」
 かわいい。奈々子は不満そうなアリスを見てそう思った。
 この愛嬌もデザインされたものなのだろうか。だとしたら、『構造体』の技術は美容整形にも応用出来るかも知れない。人間のイメージから人間そっくりの存在を作れるのなら、人々のニーズに合わせた顔を作ることも可能なはず。
 『構造体』は単なる魔力の発生源ではなく、それを含めた先進科学によって構成された、まさに『構造体』なのだ。それを支配出来たならば、もしかしたら世界を支配することすら可能なのでは無いか。
 その考えを、奈々子は馬鹿馬鹿しいと思った。
 可愛らしい馬鹿面から、世界征服?
 論理の飛躍にも程がある。
「それで、今日は何しに来たのかしら」
 ベッドの上にちょこんと座り、アリスが言った。見た感じでは淑やかに見えるが、広がったロングスカートの中で胡坐をかいているのが奈那子には分かった。
「言ったでしょ、ホンシアとは会えたか、って」
 アリスの表情が変化したのを、奈々子は見逃さなかった。何かがあったのは間違いないようだ。
「どうなの?」
 アリスが何かを迷っている。あまりにも顔に出すぎているので、奈々子は少し面白いと感じてしまった。
「えっと……」
 結局、アリスの答えは――
「会えなかった……まだ会ってないわ」
 予想通りの答えではあった。東京の空で特定の魔導士と偶然、再会する。3日という日数では、それが実現する可能性はかなり低い。しかし、アリスの顔色はそれを否定していた。
「ふーん……まぁ、3日で会えるとは思っちゃいないけど」
「……ごめんなさい」
 何故か謝るアリス。
「どうして謝るの。たった3日しか経ってないんだから、会えなくて当然」
「うん……そうね、そうよね。ふふふ」
 誤魔化すような、怪しげな笑い。
「今日はどうしたの、アリス。いつもと様子が違うみたいだけど」
「そ、そんなこと無いわっ!」
 アリスが大声で否定する。奈々子は思った。
 この子、馬鹿だ。
「そうね、気のせいだよね」
「え、ええ。気のせいよ、気のせい。気のせい」
 面白い……
 アリスの反応に悪戯心が刺激された奈々子は、さらなる意地悪を仕掛けることにした。
「ところでアリス、日本には面白い習慣があって、人が嘘を吐いたらその人の舌を引っ張らないといけないの」
 アリスがびくっ、と全身で反応した。
「それでね、もしその人が嘘を隠すためにさらに嘘を吐いていたら、今度はその舌を切り落とさないといけないんだよね」
 奈々子が不気味な笑みを浮かべてそう言うと、アリスの顔色がさーっと青くなった。
「ねぇ、アリス。正直に答えてくれるかなぁ……」
 笑みはそのままに、ゆっくりとアリスの顔に詰め寄る奈々子。泣きそうな顔をしながら、アリスが後ずさる。
「ホンシアと……会ったの?」
 見開いた眼で、奈々子は見つめた。
「それとも会わなかったの、どっちなの?」
 その表情に圧倒されたのか、何も言わず、ふるふると微かに首を横に振るアリス。
 奈々子は思った。いじめ甲斐がある、と。しかし、これ以上は流石に可哀相だと考え、奈々子は大きな声で締めの一喝を発した。
「ハッキリしなさい、どっち!!」
「ごめんなさい!!」
 頭を下げて謝ったアリス。その額が奈々子の額と激突する。猛烈な痛みに奈々子は額を押さえ、呻きながら床を転げまわった。
「だ、大丈夫……?」
 心配そうに見つめるアリス。体を丸めながら、奈々子はアリスの肉体が凶器であることを改めて実感する。

 次→「紅霞の向こう」 Part2

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