不思議の国の軟体鉱物

2017-11

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『Respective Tribute』 第4章「紅霞の向こう」 Part2

 前→「紅霞の向こう」 Part1

「痛た……どうにか生きてるけど、脳震盪くらい起こしたかも」
 ゆっくりと起き上がり、うな垂れるようにベッドに腰掛ける奈々子。
「ご、ごめんなさい……」
 完全に萎縮してしまった様子のアリス。奈々子はかぶりを振った。
「気にしないで。それより、さっきの『ごめんなさい』の意味を教えて欲しいんだけど」
「それは……」
 やはり言い辛そうなアリスに、奈々子は優しく言う。
「怒らないから。約束する」
 その言葉で僅かに気が楽になったのか、アリスは小さく頷いた後、ゆっくりと口を開いた。
「ホンシアに……会えたんだけど……」
「だけど?」
「えっと…………逃げられちゃった……わ?」
 何故かアリスは、疑問形のように語尾を上げた。まるで「これでいいのかしら?」と尋ねるように。
 これも嘘なのだろうか。奈々子にはそんな予感がした。
「そう、逃げられちゃったの」
「ええ……」
 アリスはまだ居心地の悪そうな顔をしている。
「大丈夫、怒らないって言ったでしょ。まぁ、奇襲作戦にしては単純すぎたし、相手に読まれたら失敗しちゃってもしょうがないね」
 だが、失敗したのならアリスが無傷でいるのは何故なのか。そして、その事を今まで報告しなかったのは何故なのか。
 まだ何かを隠していると、奈々子は察した。
「ホンシアと何か話した?」
「ええ。えっと……世間話をしたわ」
「世間話……それだけ?」
「……ええ、それだけだわ」
「そう……」
 追及を続けたら白状するだろうか。奈々子は無理矢理にでも真実を語らせるべきかを考え、その選択を破棄した。
 何か、事情があるのかもしれない。だとしたらそれを考慮しない強引な追及は避け、少し話題を変えることで言葉を誘導する方が良い。
 そう考えた奈々子はアリスの隠し事を引き出すため、自身の推測を話すことにした。
「何にしても、無事で良かったわ。この件、腑に落ちないことが多すぎるから」
「腑に落ちないこと?」
 アリスの眼が興味有りげに揺らめいた。
「そう。特にホンシアの暗殺をテレビで報道していないことと、ホンシアの捕獲任務を私と貴女の2人だけに任せていること。この2つがどうしても理解できないの」
「あっ、そういえばテレビで見たこと無いわ。ホンシアの事件のこと」
「そうでしょ。ということは、狙撃事件は隠したい、って事だと思うのよね」
「隠したい?」
「そう。公にしないことで何かを企んでいるのかもしれない」
 疑問符を浮かべているかのように、アリスが難しげな顔をした。
「企むって、誰が何を企んでいるのかしら?」
「これは私の推測なんだけどね……多分、ホンシアの裏にいる人間は、それなりに影響力のある人間なんだと思う。それで報道を規制させてる」
「そんなに凄い人が、ローエ……ホンシアに命令をしているの?」
 アリスが思わず「ローエ……」という人名を口にしそうになったのを、奈々子は聞き逃さなかった。
「そして、その人物は貴女とホンシア、もしくは他の誰かを会わせようとした」
「私と……ローエングリンを……?」
 奈々子は的を射たりといった風に微笑を浮かべる。
「ローエングリンって、誰?」
 アリスがしまった、という顔をして両手で口を押さえた。だが、もう遅い。
 アリスは、ホンシアとは別に何者かに会ったのだ。それも恐らく、アリスと旧知の中であろう、誰かと。奈々子はそれを確信した。
 ローエングリン。有名なオペラの名前。アリスと同じく多くの人々に知られる作品から取られた名前を持つ、何者か。その正体がアリスと同じ大シンボル、『構造体』の住人であることが、奈々子には容易に想像できた。
 アリスが真実を話したがらなかった理由もそれで察しがつく。アリスがホンシア捕獲に失敗したのは、そのローエングリンなる人物がいたからだろう。旧知の仲であるその大シンボルが、何かしらの事情でホンシアと共にいる。敵に随伴する知人に、アリスは複雑な感情を抱いたはず。その気持ちの整理が済んだかどうかも怪しい。
 だから、言わなかった。いや、言えなかったのだ。
 アリスが隠そうとした事柄に関して、奈々子はそのような推察をした。「ローエングリン」なる人物との間に何があったのか、細かいことまでは分からないまでも。
 人物――そう言うべきでは無いのかもしれないと、奈々子は思った。人間ではなく、アリスと同じく人間の想念から作られた者なのだから。
 人外の存在、大シンボル。それを使役し、報道、警察組織を動かせる程の大物。
 超常の者と、暗殺者と、自身の影響力を用いて。さらに、アリスまで引き入れようと画策して。仕組んだその先にある目的は、何か。
 奈々子は感じつつあった。事件を通じて言い知れぬ流れに巻き込まれてしまったことを。
 アリスと共に、その渦中へと。

 次→「紅霞の向こう」 Part3

スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://longstraight.blog79.fc2.com/tb.php/410-1c6e6b1a
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

 | HOME | 

FC2Ad

 

『Respective Tribute』

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

リンク

このブログをリンクに追加する

プロフィール

kuroron

Author:kuroron
黒髪ロングストレート好きの20代メンヘラです

目撃者数

 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。