不思議の国の軟体鉱物

2017-11

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『Respective Tribute』 第4章「紅霞の向こう」 Part4

 前→「紅霞の向こう」 Part3

 ノックが4回、大きなドアから響く。
「失礼致します」
 両開きのドアが開き、書類を抱えた女性が部屋に入って来る。手を触れずにドアを開けたその姿を見て、机に向かっていたもう1人の女性が言った。
「やはり、物を持って入るには不便なようだな」
「そんなことはありません。少なくとも、私たちには」
 2人の女性は共に20代に見えた。書類を持っている方の女性は細く美しい脚を持ち、机に向かっている方の女性は長く艶やかな金髪を持っていた。
 美しい脚の女性は艶やかな髪の女性の前に書類を置く。
「調査しておりました、例の狙撃事件に関する報告をお持ちしました」
 艶やかな髪の女性は無言でそれを手に取り、一瞥する。
「2名とも我が社、いや、私のと言うべきか。私直属の魔導士であった。そして、周紅霞なる狙撃手がそれを殺害した。それは良い。問題はそれでは無い」
 穏やかな、しかし潜在的に威圧感が感じられる声で、艶やかな髪の女性はそう言った。
「報告はこれだけか、カレン」
 美しい脚の女性――カレンと呼ばれた女性は、おずおずと言葉を紡ぎ出す。
「まだ……未確定な情報なのですが、我々以外に日本の警察に介入している者がいるようなのです」
「我々……以外にか」
 女性は不敵な笑みを浮かべた。それはまるで、獲物を捉えたかように。
「恐らく、それがホンシアを雇った者達だろう。何者か見当は付いているか?」
「いえ、それはまだ……申し訳ありません」
 カレンは小さく頭を下げた。艶やかな髪の女性は笑みを浮かべたまま、机に両肘を突き、手を組む。
「重要なのは、カレン。何処から情報が漏れたかだ。魔導士に関する情報は、匿秘情報の中でも特に機密性の高い物だ。殺された2名も、我が社との関係が分からぬように注意を払っていた。だというのに、だ」
「……」
「彼らは殺された。何故だ。彼ら2人は、お互いに何の関連性も無い。私の下にいる魔導士であるということ以外はな。その2人が、同一の人間、同一の団体の手によって殺害されたのだ。それはつまり、我々の情報が漏れているということ、そして――」
 女性は組んだ手を解き、目の前に立つカレンに微笑みつつ、言った。
「我々に対する、挑戦なのだ」
 女性は椅子から立ち上がり、机の後ろで夜景を見せている巨大な窓へと歩き出した。壁には絵画が飾られ、部屋の各所に骨董品を思わせるインテリアが置かれたこの部屋の中において、その大窓は異質だった。他の物品には存在する、物質としての立体感が喪失していたのだ。
 それもその筈だった。女性がその窓に触れると窓越しの夜景が消え、幾つもの顔写真がそこに映し出される。それは窓などではなく、巨大な液晶スクリーンだった。
「これは……?」
 尋ねるようなカレンの呟きに、女性は振り向いて答えた。
「2人を狙撃したのは、挑発であろう。真の目的は、やはり私の暗殺だ」
「そんな……」
「今までだって何度もあっただろう。君達や多くの優秀な者達の助けもあり、私は今も生きている。そして、今回の件の首謀者は正攻法による暗殺は難しいと考えた者だと、私は睨んでいる」
 女性の言葉に、カレンは首を傾げた。
「それと2名の殺害、どのような関係が」
「1つ。情報が漏れているということを明示する。2つ。私の興味を煽る。それが、2人を狙撃した理由だ」
「何故、そのようにお考えに?」
 女性はふふっ、と笑った。
「この事件に、私が興味を持っているからに他ならない」
「……それはつまりCEO、貴女がこの件に興味を持ったのは犯人の計画通りだと、そう仰っているのですか」
「その通りだ。見事に私は、敵の術中に捕らわれたのだよ」
 CEOと呼ばれた女性は、何故か嬉しそうに言った。
「私には分かりません。どうして貴女の興味を惹き付ける必要があるのです?」
「敵はだね、カレン。私の心理を理解しているようだ。機密情報の漏洩。そして世界でも数少ない、魔力を持った狙撃手による挑発。心が騒ぐのだよ、踊るのだよ、カレン」
 CEOは両腕を広げ、歓喜しているかのように笑みを浮かべた。
「敵は私が無視できないのを知っている。敵が叩き付けた挑戦状を、私が無視できないことを。相手は私の上を行こうとしている。魔導士で以って、私の魔導士を殺す。魔導士の運用において、私を越えようとしているのだ。嬉しいじゃないか、楽しいじゃないか、素晴らしいじゃないか。そして、それを黙って見過ごす訳には行かない。そうだろう、カレン」
 カレンは呆れたかのように首を振った。
「お言葉ですが、決め付けるべきでは無いと思われます。2名の殺害に最も適した人物として、純粋にホンシアが選ばれた可能性も充分にあります」
「カレン、分からないのか。魔導士に関する機密情報は、そうそう漏れるものでは無い。最も考えられるのは、内部からの密告者、獅子身中の虫、裏切り者の存在だ」
「まさか……!」
 その言葉に、カレンは絶句した。
「考えられません。そのような事をすればどうなるか、分かっているはずです。死を覚悟してまで、情報を漏らすような者がいるとは……」
「情報を漏らしたのではない。裏切り者は、敵に全面的な協力を行っているのだ。死を覚悟してでも、殺すつもりなのだ、私を、この私を、だ」
「信じられません……何故そのようなことを」
「それは聞いてみないと分からない。その事も興味深く思っているよ、私は」
 CEOは机の前まで歩き、再び椅子に腰掛けた。
「このスクリーンの写真は……機密情報にアクセス出来る者、つまり裏切り者の候補なのですね。だから、私の写真まで入っている」
「君が裏切り者だとは思っていないが、その通りだ。この中の誰かが、私に殺意を抱いている」
 カレンはスクリーンに映された写真を1枚1枚確かめるように見る。その枚数は30枚強。
「恐らく、事件の真相はこうだ。裏切り者は、何らかの理由で私を殺そうと考えた。しかし、協力者がいなければ事が簡単に行くはずは無い。だから警察に介入が出来るほどの力を持った協力者、パトロンを見つけ、その力を借りて魔導士の狙撃手を用意し、私の部下2人を殺害。私を挑発して、おびき寄せようとしている。それが、私の予想だ」
「可能性は考えられますが……ですがやはり、決め付けるのは早計かと……」
「想像するだけなら自由だよ、カレン。決め付けているわけではない。ただ、そんな気がするだけだ」
 先ほどまでの高揚にも関わらずそう言ってのけるCEOに、カレンはしばし沈黙した。その後、小さくため息を吐く。
「とにかく、この件に関してはもう少し調査した後、再度報告させて頂きます。それまでどうか、勝手な行動はなさらないで下さい」
「分かっているとも。この夜空の下で撃たれる危険性は否定できないからな」
 カレンは無言で扉の方を向き、足早に部屋を出て行こうとする。その後姿に、CEOが声をかける。
「カレン、私が日本に到着した日の夜に最初の狙撃事件が起こった。そして私は、安全のためにここを動くことが出来ない。これも相手の思惑だとしたら、別の手を打って来るかも知れない」
 カレンは振り返る。CEOはカレンの眼を見つめ、ニコリと微笑んだ。
「電子メール等にも目を配らせておいて欲しい。何らかのメッセージが送られてきているかも知れない」
「……分かりました」
 深々とお辞儀をするカレン。そしてCEOは言った。
「以上だ、女王」

 次→「紅霞の向こう」 Part5

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