不思議の国の軟体鉱物

2017-04

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『Respective Tribute』 第4章「紅霞の向こう」 Part5

 前→「紅霞の向こう」 Part4

 最後に奈々子と会った日から2日。ローエングリンと再会した日から5日。
 その間アリスは毎夜、マンションの屋上から空へと飛び立っていた。『不思議の国のアリス』を模した正装、あのエプロンドレスをまとって。バールのようなものを持って。
 屋上まで向かう途中、日によってはマンションの他の住人と会い、「こんばんは」と挨拶することもあった。相手の多くは軽く会釈を返してくれるものの、奇異の目で見ているのは明らかだった。もっとも、アリス自身はそれに気付いてはいなかったが。
 今宵に関しては、アリスは屋上に着くまで誰とも会わなかった。
 屋上に着くまでは。

 いつもと同じ屋上では無かった。
 見慣れない人影が視線の先、屋上の手すりに座っていた。アリスが目を凝らすと、銀色の短髪に明かりが反射し、揺れた。
 この数日間、探し続けていた相手。ホンシアが、そこにいた。
「や」
 ホンシアが片手を上げて挨拶をした。思いがけない再会と態度に、アリスは戸惑ってしまう。
「えっと、ホンシア……かしら?」
 思わず、確認の言葉を口にしていた。ホンシアはニコリと笑って、「そうだよ」と答えた。
 アリスは警戒しつつも、ゆっくりとホンシアへと歩み寄った。歩を進めながら、何を話そうか、何から聞けばいいか、そんな事を考えつつ。
 手すりに座るホンシアから3歩程離れた位置まで歩いて、そこでアリスは足を止めた。ローエングリンの事、ホンシアがここにいる理由。いくつもの想念がアリスの中で渦を成していた。
 春の風が頬に吹き付ける中、お互いがお互いを静かに見つめる。
 ホンシアが何を思っているのか、アリスには分かるはずも無かった。だが、5日前に差し伸べられた優しさを、彼女は信じたかった。今日この場所に来たのも、決して戦うためじゃない。そう、信じたかった。
 だからアリスは、右手に握られたバールのようなものを振るわないと決めた。約束だから、先制攻撃は絶対にしないと。
 沈黙の時間を破り、ホンシアが口を開いた。
「今、私をそのバールでぶっ叩ける大チャンスなんだけど」
 アリスは返答する。
「約束だからしないわ。それに、バールじゃないわ。『バールのようなもの』よ」
 軽く口元を緩ませるホンシア。
「逆に、私が先手を撃つって思わない?」
「私、貴女がそういう人じゃ無いって思っているもの」
 それを聞いたホンシアは何も言わず、アリスの顔をまじまじと見つめた。
 そして、小さく笑った。
「そんなに信用されると、逆に困るなぁ。でも、うん。そうだね。嬉しい。ちょっぴし、嬉しい」
 ホンシアの優しげな笑顔につられ、アリスも微笑んでしまう。
「今日はちょっと話したくて来たんだ。だから立ってないで、横に座ったら」
 右手で手すりをポンポンと叩き、ホンシアはアリスを招く。その誘いに乗り、アリスはホンシアの右隣に座った。
「それで、話って何かしら」
「話と言うか、そっちが何か聞きたいと思って。ローエングリンの事とか、気になるんでしょ」
 ローエングリン。アリスが一番聞きたかったことを、ホンシアは一番最初に挙げた。
「私が話せることなら、話すけど。その代わり、そっちが話せることも話して」
「私が話せること?」
「ローエングリンがどんな人なのか。私より付き合い長いんでしょ」
 その言葉からアリスは察した。ローエングリンが、ホンシアに対しても多くを語っていないことを。
「付き合いは長いかも知れないけれど、私にはもう、何が何だか分からないわ」
「それをハッキリさせるためにも、ね」
 アリスの左手を、ホンシアの両手が包み込んだ。自身の手が武器を持たないことを強調するかのように、暖かく、優しく。
「うん……そうね、そうしましょ」
 その温もりに、アリスは頷いていた。
「良かった。それじゃあ、どこから話す?」
 笑みながら首を傾げ、ホンシアが尋ねた。

 次→「紅霞の向こう」 Part6

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