不思議の国の軟体鉱物

2017-04

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『Respective Tribute』 第4章「紅霞の向こう」 Part6

 前→「紅霞の向こう」 Part5

「えっと、貴女とローエングリンは、どうして出会ったの?」
「私が今の雇い主に頼まれてね。今回の仕事を手伝ってくれそうで、優秀な魔導士が欲しいって。それで私が色々探していたら、アイツがコンタクトを取ってきたってわけ。無名の魔導士だったけど、魔力は強かった。信用は出来なかったけどね」
「信用出来なかったのに、どうして一緒にいるの?」
「雇い主がひどく気に入っててね。何か理由があるんだろうけど」
「理由って、何かしら?」
「さあ?」
 肝心の部分を答えて貰えず、アリスは少しムッとした表情をしてしまう。
「ただ、目的が一致したんだと思う。そんな気がする」
「目的って、何かしら」
「それは言えないわ。トップシークレット、ってやつね」
「誰か……殺すの」
 ホンシアはその言葉に口を噤む。そして、ゆっくりと頷いた。
「それじゃあ、ローエングリンが誰かを殺しがっているってこと?」
「多分……そうだね」
 信じられないと、アリスは思った。ローエングリンが自分の意志でそんなことを望むなんて。もし誰かを殺すとしたら、それは『女王』の命令以外に考えられないことだった。
「本当に、ローエングリンは『女王』の命令で動いていないのかしら」
「前にも言ったよね。私は違うと思う」
 ホンシアは何かを振り払うかのように、ううん、と首を横に振った。そして、低く、力強い声で言い直した。
「それだけは絶対に、無い」
 その声はまるで、殺意のようだった。
「でも、私の知ってるローエングリンは誰かを殺そうなんて、そんなこと思ったりしないわ」
「……きっかけがあれば、人を殺したいって感情はすぐに生まれるものだと思う」
 ホンシアは何処か、遠い昔を思い出しているような眼差しで言った。
「きっと、ローエングリンにも何かあったんだよ」
 その眼差しは、高層ビルの輝きに夜が浸食されているような、そんな摩天楼の夜景に向いていた。
「それは……貴女にも?」
「……私の事、私の経歴とか、もう知ってるんでしょ?」
 その言葉に、アリスは彼女の不幸な経歴を思い出す。アリスは同情の念を覚えつつ、小さく頷いた。
「私の場合は両親が死んで、行く当てが無かったから。そんなものだよ、理由なんて」
「そんなものって……」
 自分の親が死んでしまったことが、「そんなもの」で済んでしまうのか。アリスはその疑問に対する答えを、口調とは裏腹なホンシアの目付きから感じ取れた気がした。
 もしかしてホンシアは、寂しいのかしら。お父さんとお母さんがいなくなってからずっと、独りぼっちで。でもそれと人を殺すことと、どんな関係があるっていうのかしら。人を殺したら、もっと辛くなると思うのに。
「人を殺して、貴女は平気なの?」
 うーん、とホンシアは考える仕草をして、呟いた。
「人を殺したこと、ある?」
 アリスは首を振った。それをホンシアは横目で見る。
「狙撃銃で人を殺すのってね、簡単なんだと思うんだ。頭や心臓を狙って、意識を集中して、引き金を引くだけ。相手の怖がってる表情とか、殺した時の感覚とか、そういうのを覚えなくて良い。深く考えなければ、ただ鉄の塊を弄くるだけ。それだけのこと。アナタの持っているバールのようなもので叩くのより、ずっと易しい。私の心にも、私の身体にも」
「怖くないの?」
「怖い……かぁ」
 ホンシアは両手をこすり合わせる。春が訪れていても、高所の風は冬の冷たさに近かった。
「どうして、怖いって思うの?」
 どうして――どうしてかしら。
 人を殺めるという行為に対する嫌悪。それは確かにアリスの中にあった。しかし、彼女は殺人というものを上手く想像することが出来なかった。まるでそのように思考回路が組まれているような、不思議な感覚を彼女は覚えた。
「分からないけど、怖いわ」
 そう答えるのが、精一杯だった。
「同じ。私もね、怖い。何人殺しても、怖い」
 意外な言葉に、アリスはホンシアの顔を見た。
「怖いのに、どうして殺すの?」
「殺さない方が怖いから……かな。私には、これしかないから。自分らしく生きる方法は、これしかない。それ以外の道を選んだら、きっと自分じゃなくなる。それはとても怖いことなんだ」
 きょとんとした眼で、アリスは尋ねた。
「ホンシアは、人を殺さないといけないの?」
 ホンシアは、その質問と眼に何を感じたのだろうか――まるで羨むかのような視線をわずかにアリスへと向け、そして屋上のコンクリート床を見つめ出し、黙ってしまう。
「ホンシア……?」
 アリスの呼びかけ。静かに、ゆっくりとホンシアが口を開いた。
「本当なら、誰も殺さない人生が良かったんだと思う。でも、そこまで幸せになれなかった」
 ホンシアの答えは、アリスに3つの問いを生まれさせた。
 人を殺しているホンシアは、もう幸せになれないのかしら。
 誰かを殺そうとしているローエングリンは、幸せでは無いのかしら。
 そして、誰かを殺すなんて想像も出来ない私は、幸せなのかしら。
 しかしそれらの問いはすぐに霧散した。アリスは、その答えなんて考えたくも無かったから。そんな問題自体、ナンセンスだと思い直した。
 気付くと、寂しげで優しげな微笑みでホンシアがアリスを見つめていた。
「次はアナタの番。聞かせて、ローエングリンのこと。それと、アナタのことも」

 次→「紅霞の向こう」 Part7

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