不思議の国の軟体鉱物

2017-08

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『Respective Tribute』 第4章「紅霞の向こう」 Part11

 前→「紅霞の向こう」 Part10

 奈々子はウェブ端末の前に大量の書類を広げ、思案に耽っていた。
 可能性として、最も高いのがこの人物。でも、あくまで可能性に過ぎないのも確か。物証も何も無い今、この人物と接触を試みるのは賢い判断では無いのだけれど……
 奈々子の思考は堂々巡りしていた。上司の最近の行動、接触した人物や受け取った電子メールの送り主などを調査した結果、奈々子はある人物に行き着いた。その人物こそ恐らく、アリスとローエングリン、大シンボル同士の接触を画策した計画者。そして、ホンシアの雇い主。
 陰島俊二。
 1983年生まれ、現在61歳。公家華族の流れを汲む名家、陰島家の家系に属する。陰島家は華族制度の廃止後も資産運用に成功し、現在まで廃れずに残ることが出来た。だが陰島家には不穏な噂、血統を重んじる余り近親婚を行っていたという噂が広まったことがあった。
 その根拠としては、年齢に対する容姿の若さが挙げられている。陰島家の人間は老化の進みが遅く、長寿である傾向が強い。それは近親相姦の歴史が生んだ突然変異では無いか、そのような突飛な論説であった。
 奈々子はまじまじと陰島俊二の顔写真を見つめる。60歳には見えないが、どんなに若く見てもせいぜい50歳程度だと彼女は感じた。陰島家の他の人物に関しても、外見と実年齢に信じられないほどの差がある人物はいなかった。総じて外見は若くはあるが、ゴシップが流れるほどのものでは無い。奈々子はそんなものだろうと予想しつつも、それを調べるための資料を根っからの好奇心から集めてしまっていた。
 しかし、収穫もあった。魔導士登録者の人数が異様に多いのだ。魔導士は10万人に1人の割合で存在すると言われているが、陰島家に関してはそれを遥かに超える確率で存在する。
 調べた107人の中に、3人。100人程度の中に3人というのは、偶然なのだろうか。理知的に考えるなら偶然とすべきであろうが、奈々子はどうも釈然としなかった。
 陰島俊二が、非常に強力な魔導士だからである。
 以前アリスを検査した研究施設を通じて手に入れた資料から、奈々子は陰島俊二の魔力がアリスに匹敵する事実を知った。魔導士を高確率で生む家系の中に、強力な魔導士がいる。これは血筋によるものでは無いか。
 魔力の謎に興味を持つ奈々子にとって、陰島家は興味深いものになりつつあった。それは同時に、陰島俊二こそが狙撃事件の首謀者であるという予感が確信の方向へと動いていることでもあった。
 この数日間、大々的とは言わないけれど目立ってしまう程度には動いた。もし陰島俊二が黒幕なら、こっちに気付いてるかも知れない。私に監視が付いていたとしても不思議は無いわね。
 ホンシアの狙撃が行われなくなって、既に1週間近く。事態は次の段階へ進んでいるのかも知れない。だったらいっそ、接触を試みた方が良いのかも。今を逃したら、何も分からない可能性がある。それだけは避けたいから。仮に無関係だったら、それで良い。シラを切られたなら、それでも良い。だけど、アリスを仲間に引き入れるつもりなら私も懐柔したいはず。それを期待するしかない。殺される可能性はかなり低いのだから、ここは思い切って行くべきかもね。
 決心のついた奈々子は、陰島俊二の連絡先へと電話をかける。電話のコール音を聞きながら、奈々子はふと父親を思い浮かべ、自嘲気味に笑った。
 自分が殺されない可能性の大部分は、警察官僚の父という存在が保障している。嫌っていても、やはり父は立派なのだ。
 奈々子はたった一瞬、ほんの少しだけ、父に感謝した。

 次→「紅霞の向こう」 Part12

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