不思議の国の軟体鉱物

2017-09

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『Respective Tribute』 第4章「紅霞の向こう」 Part12

 前→「紅霞の向こう」 Part11

 チーズケーキを平らげたベイビードールは、指についたケーキの屑欠片を舐めている。袖までは着ぐるみに覆われていたが、彼女の小さな両手は剥き出しの素肌であった。
 そんなベイビードールの仕草を静かに見つめながら、アリスはプリンの乗っていた皿にスプーンを置く。
 それにしても、こんな所でベイビードールに会えるなんて本当に不思議だわ。いつ何処で誰に会えるか。ローエングリンの時もそうだったけれど、偶然の再会は突然すぎて、心の準備が出来ないわ。もし分かっていたら、もっと色々なことをベイビードールに話せたのに。
 そういえばホンシアとも、奈々子とも出会いは突然だったわ。出会いはいつだって突然なのかしら。もし予め分かっている出会いなら、それはどういう時なのかしら。
 アリスがそれを考え始めだそうとした時、ベイビードールが電子ボードを取り出した。
「どうしたの、ベイビードール」
 優しく問いかけたアリスの前で、ベイビードールは言葉を書き出す。携帯端末を見ていたホンシアも、視線をそちらに移した。
 ベイビードールが電子ボードの画面を2人に向ける。「もう、かえらないと」と書かれた画面を。
 それを見たアリスは顔を曇らせる。せっかく会えたのにもうお別れなの、と彼女は口に出そうとした。それを遮るように、ホンシアがこう言った。
「そう……仕方無いかな。何か用事があるんでしょ?」
 その言葉に、ベイビードールは頷く。アリスは開きかけた口から言葉を出そうとして、ホンシアの睨むような視線に気付いた。
 ベイビードールにはベイビードールの都合がある。それを邪魔してはいけない。ホンシアの目がそう語っているように感じたアリスは、寂しさを隠せていない微笑みを浮かべる。
「ベイビードール……」
 アリスの寂しげな眼に反応してか、ベイビードールも寂しげに「がぁ……」と声を漏らした。
「また、会いましょう。絶対、必ずよ」
 差し出したアリスの手を、ベイビードールは優しく握った。返事の代わりに、アリスも弱い力で握り返す。
 その力を緩めた瞬間、ベイビードールの手はするりと離れ、彼女は椅子から立ち上がった。
「それじゃあね」
 ホンシアがにこやかに言った。その声の感じに何かが引っかかったアリスだが、別段気にせず、ベイビードールに続いて立ち上がった。
 無言で見つめ合う、アリスとベイビードール。お互いの間にある何かを確かめるように。
 しばしの後、ベイビードールはお辞儀をした。そして雑踏の中へと歩き出し、彼女は群れの中に消えて行く。その姿をアリスはただ、黙って見ていた。
 ベイビードールの耳が、見えなくなるまで。

 次→「紅霞の向こう」 Part13

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