不思議の国の軟体鉱物

2017-09

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『Respective Tribute』 第5章「約束」 Part2

 前→「約束」 Part1

「どういうことなのか、説明して欲しいわ、ローエングリン」
 開口一番、アリスは語気強めに言った。
「もう、分かっているだろう。俺が、俺たちがやろうとしていることを」
「それは分かっているわ、だから……」
 アリスは聞かせて欲しかった。頂点にいる者へ弓引く覚悟を持った、その理由を。
「……『女王』は今、何らかの目的を持って人間社会に介入している」
「介入って、具体的には何をしているのかしら?」
「人間社会において、『女王』の地位は大手証券会社であるバンクス・アンド・ガーフィールドの最高経営責任者だ。その地位で以って、『女王』は多くの企業への投資、買収を行っている。あまりに、大々的に」
「…………全然意味が分からないわ」
 首を傾げるアリス。ローエングリンはため息を吐き、こう言い直した。
「つまり、人間の社会に大きな影響を与えているんだ、『女王』は」
「気に食わないけど、それが何か悪いことなのかしら」
「その目的は、何だ?」
 そう言われて、アリスは考え始める。
 あの『女王』のことだから、きっと高慢ちきなことだわ。もしかしたらシンボルの頂点に飽き足らず、人間の頂点にもなろうとしているのかしら。そうだとしたら、本当に腹立たしいわ。
「確かにろくな目的じゃ無いと思うわ」
「それ次第では、人間に大きな被害をもたらす可能性がある。いや、既に多くの人間が『女王』により損害を被っている」
 2人のやり取りを黙って見ていたホンシアが目を伏せ、俯く。
「放っておくわけには行かない。『構造体』と我々の存在が明るみに出てしまったのも、『女王』が原因であるかも知れないのだからな。人間にとっても我々にとっても、今の『女王』の存在は危険だ」
「本当に、それだけが理由……?」
「……ああ」
 ローエングリンは厳かな調子の声で肯定した。アリスは、それが少し悲しかった。
 エルザ。ローエングリンを慕い、今もあの『トルソー』にてローエングリンを待っているであろう、1人の少女。彼女のためにこそ、ローエングリンには戦って欲しかった。
 アリスが本当に聞きたかったのは『女王』と戦う理由では無く、エルザへの想いであったのかも知れない。その想いを持たずに命を賭した戦いへ挑む、それはアリスが期待したローエングリンの姿では無かった。
 その感傷をアリスは握り潰した。浸るのは、今では無い。今はただ一言、あの一言を言わなければならないのだ。
 アリスは震えそうになるのを必死に押し留めた。心の何処かで、恐れている。それに気付いたアリスは奥歯を噛み締め、あの嘲笑を、あの絶対を気取る陶器のような顔を思い出す。
 怒り。それに後押しされることで、アリスは言うことが出来た。
「私も……私も一緒に戦う」
 アリスには心なしか、ローエングリンが自嘲気味な微笑みを浮かべたように見えた。

「ルーシー・ガーフィールド……」
 その名を奈々子も知っていた。米国大手証券会社バンクス・アンド・ガーフィールドのCEOであり、世界有数の魔導士とも言われている人物である。
「彼女を……殺すと」
 にわかには信じられない話だった。それほどの重要人物を殺害することは、たとえホンシアの腕があろうとも容易では無いはずである。それなのに、陰島は自信ありげな笑みを浮かべていた。
「そう、そのために2回、狙撃する必要があった」
「……やはり、あれも貴方の仕業なのですね」
「私ではない、ホンシアだ」
 軽口を叩きながら明かすべきでない事柄を口にする陰島の態度に、奈々子は怪訝な顔をしてしまう。
「良いのですか、そんな秘匿事項を明かして」
 奈々子はちらりと、店内の他の席を見回した。奈々子たち以外、どこの席にも客は見当たらない。それどころか、いつの間にか店員すら消えていた。
 貸切状態となっている店内。それが陰島の手筈によるものであるのは間違い無かった。
「なぁに、もはや賽は投げられたのだ。『女王』の方も我々に付き合ってくれるだろう」
 異質な状況の中、奈々子は穏やかな微笑を無理矢理形作った。
「今この場で、貴方がたを逮捕することも出来るのですけど」
「今この場で、秘密を知った君たちを殺すことも出来るのだが」
 奈々子と陰島は笑顔を保ったまま、対手の目を見据えた。
「出来れば、邪魔しないで欲しいのだがね。あと1日で、全てが終わるのだから」
「それは……明日にルーシー女史の狙撃を行うということでしょうか」
 陰島は首を横に振り、テーブルの上に右肘を付く。
「奈々子君、君は何故我々が2件の狙撃事件を起こしたか、その理由が分かっていないようだな」
「……それを聞くために、ここに来たのですから」
「簡単だ。『女王』の興味を引くために、彼女の手駒を何人か殺す必要があったのだ。ホンシアが狙撃した2人、あれは『女王』の手足として働く魔導士であり、それを殺したならば『女王』が何らかの反応を見せると、我々は読んだわけだ」
 先ほどから陰島が口にしている『女王』という呼び名。奈々子は以前アリスから聞いた大シンボルの称号、「何々の女王」という言葉を思い出す。強力な魔導士であり、アリスと同様に「女王」であり――奈々子は浮かんだ想念を振り払った。それは、あまりに出来すぎているから。
「そしてその読みは的中した。『女王』側は狙撃事件の犯人ホンシア、首謀者である私、『女王』側にいたスパイ、それらについての調査を行い始めたのだ。恐らく、私が首謀者であることは既に判っているはずだ。そして『女王』自ら、我々を殺しに来るであろう」
「なら、こんな場所で私と話している時間など無いのではないでしょうか?」
「アリスが必要なのだよ。明日、『女王』と戦うために」
 奈々子は自分の手元にあったグラスを、相手の顔に向けて振ろうとした。しかし、水の入ったグラスはびくとも動かない。
 陰島の後ろに立つ神崎の眼が、そのグラスを鋭く見つめていた。
「つまり、アリスをルーシー女史殺害計画に参加させるために私との面会に応じたと……!」
 怒りの念を露わにした声で奈々子は言った。陰島は涼しげな顔で頷く。
「上司である君の命令であれば、彼女もきっと参加するだろう。あの怪物と戦うためには彼女の助けがどうしても欲しい」
「お断りします。たとえ銃を突きつけられても、私はそれに応じません」
「そうか……試してみるかな?」
「……調子に乗るな、老いぼれが」
 奈々子が侮蔑の言葉を吐き捨てた瞬間、神崎の右手が彼女の首筋へと突き出される。その人差し指と中指の間に挟まれた鋭いナイフの刃先が、喉もとの1cm程手前で輝いていた。
 少しでも前に動けば死に至る状況下、奈々子は冷や汗を流しながらも冷静な態度でこう言った。
「銃を下ろしなさい、小夜」
 奈々子たちの隣のテーブルに座っていた、黒いコートを着た長い黒髪の女。その女が右手の銃を神崎の、左手の銃を陰島の頭部に突き付けていた。
「やめろ、神崎」
 奈々子に遅れて、陰島も自分の部下を制した。神崎は主の肩越しに出した右腕をゆっくりと戻し、奈々子に向かって礼をする。
 奈々子が小夜と呼んだ女の銃は、その間も神崎の頭から少しも離れはしなかった。

 次→「約束」 Part3

スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://longstraight.blog79.fc2.com/tb.php/423-a19bdd0b
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

 | HOME | 

FC2Ad

 

『Respective Tribute』

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

リンク

このブログをリンクに追加する

プロフィール

kuroron

Author:kuroron
黒髪ロングストレート好きの20代メンヘラです

目撃者数

 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。