不思議の国の軟体鉱物

2017-09

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『Respective Tribute』 第5章「約束」 Part5

 前→「約束」 Part4

「失礼致します」
 そう言って、カレンは開け放たれている大きなドアをくぐる。
「首尾はどうだ、女王」
「その呼び方はお止め下さい。その名が真に相応しいのは、貴女です」
 机に向かうCEO――『自由の女王』の称号を持つ大シンボル――『女王』ルーシーは、陶器のように滑らかな頬に微笑を浮かべた。
「君も私も女王の称号を持っているのは事実だよ、カレン。君も私も同じ、同等なのだ」
「私個人の意見ですが……大シンボルの称号は無意味なものであると考えています」
「意味はあるさ。自戒なのだ、称号は」
 カレンはまじまじと、ルーシーの表情を伺うように見つめた。そこから真意を見出そうとするかのように。
「申し訳ありません。どのような意味なのでしょうか?」
「カレン、君の悪い癖だ。私に仕えてくれることには感謝するが、私を答えとし、私を頼りにするのはどうかと思う。言っただろう。同じ女王であるのだから、君自身の意見、考えも重要なのだ。考えた末に君自身が無意味であると思うのなら、それも立派な意見だ」
 カレンは否定するかのようにかぶりを振った。
「貴女こそが絶対です。貴女こそが、我々にとっての先導者なのです」
 その言葉が気に入らなかったのか、ルーシーの笑みがふっと、消えた。
「……それで、陰島の件はどうなった」
「はっ。先日電子メールによって送られてきた晩餐会の招待状、それに記載してありました住所にある邸宅。間違いなく、陰島俊二氏保有の物件です。以前は小学校が建てられていた場所であり、敷地面積は13284平方メートル」
「カレン」
 説明を遮るように、ルーシーが名を呼ぶ。
「写真を見せてくれ。その方が早い」
 カレンは慌てた様子で抱えている電子ボードを机の上に置いた。それを素早く操作し、屋敷の衛星写真を表示する。
 中庭を四角く囲うように建てられた館。上辺と下辺はそこからさらに西へ向かって辺が伸びており、西の正門からその間を通って、玄関へと道が続いていた。
「なるほど、中庭も広い。この部分は?」
 ルーシーは中庭の東側を指差した。館の東側から中庭へと細い屋根が伸びており、その先端には部屋があるようだった。
「そちらの2階が書斎となっております。1階部分は柱しか無く、入口は館東側の2階から伸びる通路以外、存在しないようです」
「内部構造について、もう少し詳しく教えて欲しい」
「館は地上2階の構造ですが、地下室が1箇所だけあります。随所に監視カメラが設置してあり、それらの映像が館東側地下にある監視室へと送られるようです」
 ほほう、とルーシーは感心した風に声を出した。
「よく調べたものだ」
「調査予算に余裕があったので、陰島が雇った傭兵の何人かを買収致しました。そのため、敵戦力についても把握しております」
「素晴らしい。良い仕事だ、カレン」
 カレンは微かに頬を赤らめつつ、言葉を続けた。
「武装した警備兵が約20名。陰島が国外の警備会社から雇った者達です。武器に関しては恐らく密輸でしょうか、充実しているようです。自動小銃が全員に配備されていると考えるべきでしょう。また、狙撃銃も数丁用意されてるとのことです」
「ふむ、それは厄介かも知れないな」
 ルーシーは親指を唇に当て、考えるような仕草をする。強力な魔導士にとっても、狙撃銃は危険な武器である。近距離にいる相手の武器は振動破砕により破壊することも可能だが、遠距離の対象にそれ程の魔力を行使することは不可能に近かった。そして何より、敵の位置が分からなければ魔力を使う間もなく、撃ち抜かれる。
「魔導士は……何人いる」
「狙撃の実行犯である周紅霞、狙撃事件の首謀者である陰島俊二、陰島の秘書である神崎忠光、そして、我々を裏切った何者かの4名です」
「違う」
 説明を間違えたと思ったのだろうか、カレンは少し焦った表情でルーシーの顔を見た。
 薄く笑みを浮かべたルーシーが、落ち着いた語調で言った。
「『何者か』ではない。『守護の王』――ローエングリンだ」

 次→「約束」 Part6

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