不思議の国の軟体鉱物

2017-08

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『Respective Tribute』 第5章「約束」 Part7

 前→「約束」 Part6

 目覚ましの音と共に目を覚ましたアリスは、カーテンが勝手に開け放たれ、日光が差し込むのを感じた。不思議に思いながらも起き上がった彼女は、見知った顔が朝日に照らされているのを発見する。
「奈々子……なんで?」
 寝ぼけ眼を凝らすアリスに、奈々子は優しく微笑んだ。
「ちょっとね。気まぐれで」
 そう言って彼女はアリスの横を通り過ぎ、台所に向かう。ベッドの上のアリスは状況が理解できずに、きょとんとしている。
「何か食べたいものある?」
 普段とは違う、気遣いの感じられる優しさ。奇妙に思いつつも、アリスは頭に浮かんだ食欲を言葉にしていた。
「オムレツ……甘いの」
「甘いのね。頑張ってみるわ」
 調理し始める奈々子をぼんやりと見つめながら、アリスは今の状況を把握しようと思考を巡らせた。
 奈々子、朝、オムレツ、優しい奈々子、変な奈々子、特別な朝、ホンシア、迎え、ローエングリン、『女王』――
 浮かんでは消えるイメージの中で、アリスは自分の為すべきことを少しずつ意識する。
 顔を洗って、髪を整えて、決戦のための服を着て、『バールのようなもの』を持って、そして――
 思考を断ち切るかのように、枕元で携帯端末が鳴った。アリスが手に取って確認すると、ホンシアからの電子メールであった。
「30分後に、屋上で」
 その文面と部屋の時計を見比べるアリス。午前7時32分、その30分後。
 顔を洗って、髪を整えて、決戦のための服を着て、『バールのようなもの』を持って――8時に屋上へ向かう。
 為すべきことが確定したアリスは、ベッドから床へと足を下ろす。
 まずは顔を洗わなきゃ。そうしないと、何もかもスッキリしないわ。
 心の中で呟いた言葉を反芻するかのように、アリスは頷く。その目に、奈々子の背中が映る。
 顔を洗って、髪を整えて…………朝ごはんも、食べないとだわ。
 予定を修正しながらアリスは洗面所へと入る。冷水で顔をすすぎ、髪に櫛を入れて軽くとかすと、自分自身が満足出来る可愛らしさが鏡に映った。
 鏡に向かって微笑むアリス。デザインされた美が自然体という理想の状態で映える、それは大事な日に相応しい、完璧な表情だった。
 アリスはその顔が似合う唯一の状況を想像した。輝かしい勝利の瞬間、土に汚れ地に這いつくばる『女王』の姿を見る自分を。
 自然と胸が高鳴っていた。空想するだけだった報復が現実に近づいていること。自分が越えられなかったものを突破する、待ち遠しい瞬間。『夢の女王』が夢見た、夢想の光景。それがついに、現実に――
「アリス」
 その呼びかけで我に返るアリス。想像の間に嫌らしく歪んでしまった笑みも、元に戻る。
「そろそろ出来るから、座って待ってて」
 奈々子の声に「ええ」と応えて、アリスは洗面所を出る。台所の付近では甘さの混じる玉子の匂いが漂っており、それを嗅ぎながらアリスはテーブルの前に座った。程無くして、奈々子が朝食を並べ始める。
「はい、オムレツとトースト。あとコーンスープね」
 楕円形のオムレツは奈々子の手料理だったが、コーンスープはインスタント食品である。それでもアリスは奈々子が初めて作ってくれた料理に嬉しさを覚え、ついつい口元が緩んでしまう。
「何、そんなに嬉しそうにして」
 自分の分も並べ終えた奈々子は、アリスと向かい合うようにして座った。
「嬉しいわ、とても。だって奈々子が私のために料理を作ってくれるなんて、初めてだもの」
「そうね。ちょっと、柄じゃないかも」
「そんなことないわ。女の人は料理を作るものでしょ?」
「へぇ……作れないクセに」
 意地悪な笑いを浮かべる奈々子。アリスは頬を膨らませた。
「少しくらいは作れるわ」
「それじゃあ、今度はアリスの手料理を食べさせて貰おうかな」
 笑顔なのに、どことなく寂しさが混じった声。アリスはほんの少し、違和感を感じた。
「冷めない内に食べましょう。いただきます」
 奈々子は手を合わせて料理に頭を下げる。アリスも同じようにしながら「いただきます」を言った。

 次→「約束」 Part8

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