不思議の国の軟体鉱物

2017-10

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『Respective Tribute』 第5章「約束」 Part8

 前→「約束」 Part7

 まずは一口、アリスはフォークでオムレツを切り取って食べてみた。
「甘い……」
 自分で注文した味なのに、思わず声が出てしまうアリス。
「ご注文どおり、砂糖と牛乳多めで。美味しいでしょ?」
 アリスは頷いた。自分でも何度か試したことのあるアリスだったが、甘さと美味さを両立させることは出来なかった。そんな彼女の理想形が、さりげなく目の前に存在している。
「凄いわ、奈々子。どうやって作ったのかしら?」
「配分をちゃんとしただけよ。簡単だから、今度教えてあげる」
「本当? 約束よ、奈々子」
 そう言ってアリスは、マーガリンが付いたトーストの上に残ったオムレツを乗せた。それを見た奈々子も同じようにトーストの上にオムレツを乗せ、食べ始める。
 戦いの直前だというのに、アリスは奇妙な安らぎを感じていた。穏やかな食卓、何でもないただの朝食。『トルソー』でのローエングリンとエルザを見ていた時のような、満ち足りた気分。
 それはつまり、夢のような、いつまでも続けば良いと思えるような、そんな時間にいるという証。
 しかしそんな時間も、スープを飲み干した時、終わってしまった。まるで夢から覚めるように。
 空の食器を挟んで2人は見つめ合う。アリスは言うべきかどうか迷った。今日の戦いのことを、そして『女王』のことを。それが表情に現れたのか、奈々子はニコリと微笑み、アリスにこう尋ねた。
「今日はどうするの?」
「えっと……大事な用があるの」
「そう……大事な用ね」
 アリスは言えなかった。個人的な問題に奈々子を巻き込みたくなかったのかも知れないし、自分自身の根幹に関わる事だったからなのかも知れない。理由はアリス自身にも分からなかった。
 だが、彼女は思った。今自分がやっていることは、ローエングリンが自分にやったことと同じなのだと。余計な心配りは相手にとって、とても悔しいことなのに。それを味わわされた自分が、それと同じことをやっている。
 どうして、何もかもを言ってしまえないのか。昔はもっと、何一つ隠さなくて良かったはずなのに。
 奈々子は無言で立ち上がり、テーブルの上の食器を片付け始めた。アリスも立ち上がって、クローゼットから服を取り出す。
 エプロン部分が白い水色のエプロンドレス、白いリボン付きカチューシャ、そして『バールのようなもの』――アリスが『構造体』にいた時に着ていた服であり、武器であり、それらは最も自分らしい格好であると彼女は自覚していた。称号『夢の女王』と共に与えられた、自分の一部なのだと。だから空を飛ぶ時はこの姿でいたかった。人間の群れの中から離れて、本来の自分らしくあるために。この服を着ている時こそ、本当の自分。『女王』と戦う時は偽りの無い、本当の自分で在りたかった。
 全力を出すのなら、自分らしく。着替え終えたアリスの中で研ぎ澄まされる、戦いへの意志。自分自身が凶器に、『バールのようなもの』になるかの如く。
 完全なまでに戦う準備を済ませたアリス。それなのにクローゼットから振り向いた時、彼女のその心が揺らいでしまった。
 目を伏せ、怒りと寂しさを織り交ぜたような顔をした奈々子が、立ち尽くすようにアリスを見つめていて――そして、呟いた。
「ルーシー……ルーシー・ガーフィールド」
 その名前が聞こえた時、アリスは理解してしまった。
 奈々子が何もかも、全て分かっていることを。

 次→「約束」 Part9

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