不思議の国の軟体鉱物

2017-07

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『Respective Tribute』 第6章「スカーレット・ドレス」 Part1

 前→第5章「約束」 Part9

「ここまでは問題無しか……」
 陰島俊二は田園風景が広がる車外を見ながら呟いた。
 彼と神崎忠光の2人が乗る車は、『女王』を招いた洋館へと続く一本道を走っている。時刻は午後5時前、そこからは順調に行ければ15分程度で到着する。あくまで順調に行ければ、であったが。
 早朝にホテルから出る時、陰島たちの乗る車の他に3台の車がダミーとして発車した。その後、全ての車が数時間も無意味な走行を行い、陰島と神崎は途中で車まで乗り換えた。さらにホテルから発車した他の2台が、既にこの道を無事に通過している。そして今の所、『女王』の影は微塵も見えない。
 陰島はそれらが気休めでしか無いことを感じると共に、いっそ何の小細工もせずに堂々と動いた方が良かったのではと考えてしまう。
「しかし、本当に『女王』は現れるんでしょうか」
 神崎が根本的な疑問を発した。運転席に座る神崎は休憩を挟んでいるものの、かれこれ7時間近く運転を行っている。しかし運転手としての仕事も慣れているためか、疲労の色は全く見えなかった。
「それは、わからん」
「良いんですか。昨夜あんな大見得を切っておいて結局何も無かったら、あまり格好の良いものじゃありませんよ」
「何も無ければ誰も死なずに私が恥をかくだけで済む。ある意味、最もなハッピーなエンドじゃないか」
「しかし、叔父上はそんなことを望んじゃいないんですよね」
 陰島は口元に笑みを浮かべ、こう言った。
「私だけじゃない。恐らく『女王』もそんなくだらないことを望んじゃいないだろう」
「……ローエングリンの言うこと、信用なりますかね」
「またその話か……」
 陰島は肩をすくめる。神崎は他人の前では寡黙に働くが、2人きりの車内など、秘書としての体面を必要としない場所では饒舌であった。軽口好きの陰島はその点をむしろ好んでいたが、それでも同じ話を何度も繰り返されることにはうんざりしていた。
「『女王』周辺の機密情報にアクセス出来たのは誰のお陰だ? もしそれ自体が我々を釣るための罠だとして、では我々を釣る意味は? 『女王』の地位と財力から見れば、我々など無視すれば良いほどの存在だ」
「ですが、『女王』の性格まで彼の言う通りかどうかは分かりませんよ」
「今更性格がどうであろうと、手遅れだろう。まぁ、ここまで何事も無かったのだから、正々堂々と戦ってくれるとは思うが」
「……ローエングリンのことをよほど信用しているのですね」
 神崎の不満げな声に、陰島はニヤリと笑った。
「嫉妬か?」
「馬鹿言わないで下さい」
「確かに怪人物の言葉を信じて命をかけるのは難しい。だが、私は彼の本心を聞いた。だから、信じることにしたよ」
 その言葉に引っかかるものがあったのか、神崎がしばし沈黙する。
「……本心とは?」
「男の秘密だ。他言無用ということだな」
「嘘を吐いているかも知れませんよ」
「疑い始めたらキリが無い。自分が信用出来ると思ったから、私は信じた。他の人間には悪いが……私の判断が間違っていたら、その時は一緒に死んでもらう」
「それは……覚悟の上です」
「……すまないな」
 ポツリと、陰島は言った。
「いいんです。最後まで付き合いますよ」
 陰島は再び車外に目を移す。
 自分1人で戦えないことが、彼にとって最大の無念だった。他人が戦いの犠牲になることを避けたいという思い。そしてそれ以上に1対1、真の意味での決闘をしたいという思いが彼の中に強くあった。
 『女王』が現れたとして、1対1で戦って勝てる可能性はほとんど無いだろう。加えて、『女王』が1人で現れる可能性も皆無。そんな中でたとえ決闘を望んだとしても、それは叶わぬ事なのだ。ここまで命があったことですら、奇跡のようなものなのだから。
 自分自身を納得させた陰島が諦めの溜息を吐いた時、車がほんの少し、速度を落とした。
「叔父上、前方に人が……」
「人だと……?」

 次→「スカーレット・ドレス」 Part2

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