不思議の国の軟体鉱物

2017-07

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『Respective Tribute』 第6章「スカーレット・ドレス」 Part2

 前→「スカーレット・ドレス」 Part1

 神崎の言葉に、陰島はフロントガラスの先を見る。進行方向の直線、その先。道路の真ん中で、まるで轢かれるのを待つかのように人影が佇んでいた。
「そうか……」
 それを見て、陰島は理解した。
「轢け」
「……は?」
「轢くんだ、忠光。アクセル全開で。さもなきゃ、こっちが殺られる」
「りょ、了解っ!」
 運転席の神崎が慌てながらも思い切りアクセルを踏み込む。車は轟音と共に急加速し、人影へとどんどん近づいて行く。
 高速で接近する車に気付いているはずなのに、その人影は微動だにせず立ち誇っていた。そして少しずつ鮮明になって行く人影の容貌に、陰島は狂喜の笑みを浮かべる。
 自分達が今も生きているのは奇跡などではない。『女王』の気まぐれなのだ。自分が『女王』と闘いたかったのと同じように、『女王』もまた自分と闘いたいと思ったのだ。そう、きっと彼女も――
「楽しいじゃないかっ……!」
 ――自分と同じように楽しんでいるのだろう。
 『女王』は、ルーシー・ガーフィールドは立っていた。殺意を持って加速する車両にうろたえる事も無く、ただ立っていた。ただ微笑んでいた。
 その微笑に、陰島は予感する。『女王』程の魔導士なら、2mまで接近していたとしても車を避けることが可能であろう。しかしもし、避けないとしたら……
 そして『女王』が右半身を僅かに引いた時、陰島は予感を確信へと変える。即座に車体の右側、その前後両方のドアを魔力による振動加工で破壊し、叫んだ。
「逃げろっ!!」
 神崎はその不可解な行動に混乱した様子だったが、陰島が車外へと飛び出した直後、彼も同様に車から田畑へと飛び降りた。
 運転手を失った車は慣性のまま直進し、車を飛び出した2人が見た時には『女王』を轢き殺す寸前であった。
 そして、『女王』の右腕が残像と共に突き出された。
 瞬間、鈍く大きな音と共に重さ1トンを越える鋼鉄の車体が『女王』を避けるようにして、左右に引き裂かれる。歪な切断面を持った2つのスクラップは『女王』の後方で倒れ、炎上する。
 その光景に、陰島は呟かずにはいられなかった。
「化物め……!」
 『女王』は立っていた。傷一つ負うことなく暴れ走る車に道を譲らせ、ただ立っていた。ただ微笑んでいた。
 緋色のパーティードレスが170cm程の白い肌身を包んでいる。
 直線に下りた長い金髪が肩からシャギーウェーブを描いており、微かに吹く風に揺れている。
 細腕が、脚線が、肩幅が、頬が、耳が、鼻が、眼が、口元が、破壊者に似合わない端整な全てが、彼女の狂気を示している。
 造られた美貌。与えられた威力。夢想の産物が実体化したかのような存在。
 大シンボルの頂点、『自由の女王』ルーシーは嬉しげに微笑む。その眼はじっと、陰島を見ていた。
「あの速度、あの重量を振動破砕で……」
 目の前で起きた異様に対し、信じられないといった表情で神崎が呟く。
「忠光」
 険しい顔で『女王』を見つめながら、陰島は神崎の名を呼んだ。
「私が足止めをする。全速で屋敷に飛び、迎撃の準備をしろ」
 薄手のロングコートに付いた土埃を払いながら、陰島はゆっくりと立ち上がった。
「急げ」
「待ってください、足止めなら私が……」
「黙れっ!!」
 突然に怒号を浴びせられ、神崎がたじろぐ。
「思ってもいなかったのだ……正々たる決闘の機会が訪れるなんてことは。そんな機会を前にして、私に逃げろと言うのか。それともナニか? お前は私が負けるとでも思っているのか?」
「そんなことは……」
「なら、早く行け。私は意地でも『女王』を館へ誘導する。だから準備を……特に狙撃手の準備を怠るな」
「分かっています」
「それとだ……」
 陰島は神崎へと向き、穏やかに微笑んだ。
「元気でな」
「叔父上……」
 そう言った直後、神崎は未練を断ち切るように陰島に背を向け、屋敷へ向かい突風のような加速で飛翔した。その加速で巻き起こった風が砂埃を巻き上げ、陰島はそれを払いながら一歩一歩、『女王』へと近づいて行く。

 次→「スカーレット・ドレス」 Part3

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