不思議の国の軟体鉱物

2017-10

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『Respective Tribute』 第6章「スカーレット・ドレス」 Part8

 前→「スカーレット・ドレス」 Part7

「その通り、私はここで貴女を殺す。なればこその全速、全力、全霊、受けて頂きたい」
 そう言った瞬間、陰島が振るう腕から明確な形状が失われた。不退転の加速度発生。寸秒の停止すら無い陰島の攻撃は残像となって、『女王』の腕を狙う。
 それに対し『女王』はふふっ、と小さく噴出し、そして――
「アハハハハハハハハハハハッ!!」
 狂ったように笑い出すのと同時に、彼女の腕も形を無くした。
 静止すること無い腕の酷使、腕では無く運動に対する防御。一瞬でも気を抜いた瞬間、腕が破壊される修羅場。防御ですら自分の神経に激痛を与え、防御ですら相手の骨に亀裂を入れる。
 その中で彼らは、狂喜していた。
「素晴らしい、素晴らしいぞ陰島ぁぁっ!! 折れない程度の全力のつもりだが、これは人間の人体に耐えられる速度では無いはずだ!! 君の腕が悲鳴を上げて、私の腕がか弱く泣いていて、私は痛い、痛い、痛いんだよ陰島ぁっ!!」
 腕の激痛を無理矢理我慢していた陰島に、腕以外の新たな激痛が走る。それが左脚への打撃であると分かった瞬間、彼は右足の踵で『女王』の左足を踏みつけた。骨を砕く感触、骨が軋む鈍痛。その直後、気を失いそうになる痛みと共に左腕の感覚が消えた。『女王』の右手に掴まれた左腕、その関節が千切れそうに折れ曲がっていた。即座に残った右手で陰島は『女王』の左腕を掴み、全力で力を加えたが、『女王』の左手もまた陰島の右腕をしっかりと掴み返した。
 陰島の右と『女王』の左が拮抗する中、残された『女王』の右手がゆっくりと掲げられた。
「遺言はあるか、陰島よ」
 先ほどまでの狂乱振りが嘘のように、『女王』は静かに言った。
「……特には無いが、悔しいな」
 陰島の四肢はもはや満足に動かすことすら出来ない。『女王』の右手に殺されるのは、必至でしか無かった。
「そうか……ならば陰島、死ぬ前に1つ、こちらの質問に答えてくれないか」
「何だ……?」
「魔力……それはイメージに呼応して発生する力だ。だが、意識的に力を発生させることは知的生命体なら当然のこととも言える」
「何を……言いたい?」
 左腕の関節から流れる血。陰島は少しでも出血を減らそうと、腕の周りを加速度で圧迫した。
「魔力があろうと無かろうと、意思のある者は世界を自分の望む方向へ変えようとする。そしてそのための力が大抵の知的生命体にはある。そうなると、魔力とは人間にとって無駄なものなのかも知れない」
「……」
「どう思う、陰島」
 陰島は、いいや、と言いながら首を横に振る。
「魔力によって、私には多くの可能性が生まれた。そして可能性に無駄なものなど、ありはしない」
 それを聞いた『女王』は満足げな笑みを浮かべ、頭を垂れた。
「ありがとう、陰島。君は私が出会った魔導士の中で、最も敬意を払うべき者だ」
「その必要は無いよ、『女王』」
 陰島は、最後にコートのポケットの中で加速度を発生させた。ある物を起動させるための、力を。
「何せ、貴方も私も死ぬのだから」
 顔を上げた『女王』が、陰島の意味有りげな笑みを見て顔を引きつらせる。その表情に明らかな焦りの色が出ていることを確認した陰島は、まるで勝利したかのような満ち足りた達成感を感じた。
 決して余裕を失わなかった偉大なる『女王』の心を、陰島は乱すことが出来たのだ。他の誰もが届かなかったであろう人外の『女王』に、彼は届いたのだ。自分の命と引き換えとは言え、ただの初老の男が、紛れも無い王者に。
 勝利では無いかもしれない。だが、全くの無力でも無かった。彼には、それで充分だった。
 たとえ死の間際、残った右腕が『女王』から離され、胸部に強い衝撃を受け、『女王』が道連れにならないと知っても、その満足感は一片も失われなかった。

 轟音と共に、小型爆弾が陰島の肉体を爆砕する。
 『女王』は飛び散る肉片の一部を浴びながら、無様に立ち尽くしていた。

 次→「スカーレット・ドレス」 Part9

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