不思議の国の軟体鉱物

2017-08

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『Respective Tribute』 第6章「スカーレット・ドレス」 Part13

 前→「スカーレット・ドレス」 Part12

 加えて、カレンの足に履かれている、爪先の尖った赤い靴。アリスの持つバールのようなものと同様の、『構造体』で作られたカレン専用の武器。破壊が不可能な程に強度があり、持ち主以外の魔力も受け付けない。それは靴でありながら、刃物同然の凶器であった。
 出来ることなら、かすらせたくも無いわ。お洋服が駄目になっちゃう。
 そう思いながらアリスは攻撃を避け、攻撃を避けられる。この状態が続けばたとえカレンを倒したとしても疲労は避けられない。かと言って、無理に攻めれば赤い靴の直撃を受ける可能性も高かった。
 拮抗のジレンマ。それはカレンも同じはずだったが、彼女からそれを崩すことは無いとアリスは考えていた。
 『構造体』に居た頃のカレンは積極的な性格では無く、生真面目に仕事をこなし、与えられた役割に背かないという、典型的なシンボルだった。そんな彼女がリスクを省みない行動を取ることはアリスの記憶上ありえないことであり、だからアリスは自分から仕掛けてやろうと心を決める。
 そう、カレンは危険を冒さない。そんな彼女が、不自然に一瞬飛び退いた。
 そして、放たれる豪速の右足。
 不意を突かれたアリスは回避が間に合わず、バールのようなもので受けざるを得なかった。その眼前に、続けざまカレンの左足が迫る。反射的に武器から右手を離し、アリスは迫り来るカレンの左足首を握り掴む。
 防御に成功したアリスだったが、その胸中では苦々しさが込み上げていた。
 まさか先に仕掛けられるなんて、思ってもみなかったわ。こんなに一生懸命なのも、『女王』のためかしら。だとしたら凄く気に入らないわ。あんなののためになんて、気に入らない。
 そんなアリスの不機嫌など御構い無しに、カレンの右足が蹴り放たれる。寸でのところでアリスは右手を離し、その一撃から逃れる。
 再び距離を取る両者。アリスは自分を翻弄する業師を見据え、その表情から迷いが無いことを窺い知る。
 何故、そこまでの意志を持てるのか。アリスはその信念の理由が知りたくなった。
「ねぇ、カレン」
 アリスは呼び掛けたが、刀身のように磨ぎ澄まされたカレンの様子に変化は無い。
「どうして貴女はそんなに一生懸命なのかしら?」
 沈黙の後、瞬きが1回。カレンは口を開いた。
「もちろん、あの方のため」
「『女王』なんかに尽くしたって、何も良いこと無いと思うわ」
 忌々しげに、カレンの眉間に皺が寄る。
「貴女には分からない。あの方はその秀麗、英知、魔力で以って人間と我々をもっと高みに連れて行ってくれる。それなのに貴女は、無知に逆らうだけ。なのに、どうしてあの方は……」
「その高みって、一体何かしら?」
「あの方の真意はまだ分からない。だけど、あの方は必ず導いてくれる」
 アリスは呆れて、思わず溜息を吐いてしまった。自分の仕草に一瞬、奈々子のことを思い出す。
「何も分からないのに付いて行ってるって、カレン、貴女は『女王』のことが好きなの?」
 予想外の言葉だったのか、カレンの目元がぴくっ、と反応する。
「それとも、偉いから信じてるだけ?」
「私は……」
 言葉に詰まり、カレンの表情が曇り始める。アリスはその顔に何処か、自分に似ているものを感じた。ローエングリンや奈々子について悩んだ時、自分もあんな顔をしていたのだろうと。
 誰かを想い、迷うこと。それはつまり――
「好きってことなのね」
「そんなの、分からない」
 アリスの発言を振り切るようにカレンは表情を引き締めた。だが先ほどまでとは違い、僅かに隙のある様子で。
「あんな自分勝手な『女王』の何が良いのかしら」
 そう言いながらも、自分だって奈々子やローエングリンの何処が良いかを聞かれたらきっと答えられないだろうと、アリスは思った。そういうものなのだと、理解しつつあった。
「やっぱり誰にも分からないものなんだわ」
 そう言ってアリスは再びバールのようなものを構える。相手も自分も同じ穴のムジナ、自分でも分からない好意を持つもの同士。そのことにどうしてか、彼女は嬉しさを感じた。
 アリスは翔けた。対等の相手に向かって。

 次→「スカーレット・ドレス」 Part14

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