不思議の国の軟体鉱物

2017-09

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『Respective Tribute』 第7章「嘘」 Part1

 前→第6章「スカーレット・ドレス」 Part16

 ローエングリンは待ち構えていた。突き立てた剣を握り締めながら。扉の向こうから聞こえる叫びに耳を立てながら。叫びは神崎の声だった。
 敗者の痛みが廊下に響く中、ローエングリンの心中は掻き乱されていた。『女王』への恐れでは無く、巻き込んでしまった人々に対する罪悪感によって。
 神崎は言った。陰島は自分の意志で戦ったと。だがローエングリンがいなければ、陰島は『女王』と戦うことは無かったはずだ。死ぬことは、無かったはずだ。陰島だけではない。多くの人間が死んだ。恐らく神埼も、生きられまい。
 ローエングリンの肩に圧し掛かる、贖いへの意識。死んでいった者たちの思いに、何を以って報いるか。何を以って報えるか。
 答えは1つしかなかった。
 しかし彼は分かっていた。それはとても困難なことなのだと。成せる見込みは薄いのだと。せめて、アリスが隣にいてくれれば――そう考えた時、ローエングリンの口元は自嘲気味に緩んでいた。
 俺は結局、アイツを頼りにしているのか。
 陰島や神崎に信頼を寄せていなかったわけではない。その逆だったから共に戦う気になれた。しかし他の誰であろうと、アリス以上に自分と連携が取れるはずは無かった。弟子とも妹とも言える彼女こそ、最高の共闘者。だからこそ、本来ならば巻き込みたくなかった。
 弱いものだな――
 僅かに薄れていた不安が再び色濃くなって行く。扉の向こうからは、もう叫び声は聞こえない。
 どうして自分は勝ち目の薄い戦いを始めてしまったのか。ローエングリンはほんの少し昔に抱いた、あの決意を遠く想う。
 ただ、そうせずにはいられなかったから。
 その単純で、決定的な衝動によって彼はここで待ち構えている。そのことに彼自身、後悔は無い。あるのはただ、無力な自分に対する不安だけだった。
 そして、前方から物凄い勢いで吹き飛ばされて来る扉。それをローエングリンは冷静に剣で捌いた。目の前で扉は真っ二つに縦割れ、彼の左右をそれぞれ横切る。
 扉の無くなった部屋と廊下の境目、その後ろに赤く染まった怪物がいた。
「お久しぶりです、『女王』」
 頭は垂れず、けれど恭しい声調でローエングリンは挨拶をした。
「やはり君か、ローエングリン」
 感慨なさげに『女王』は言い、一歩だけ足を進める。部屋との境い目を、越えた。
「お顔が汚れています。お拭き下さい」
 ローエングリンは服のポケットから真っ白いハンカチを取り出し、魔力による加速度で『女王』へと投げ渡した。
「済まないな、ローエングリン。いや、それともこれは一種の皮肉か?」
 返り血を拭った『女王』の顔は仄かに赤みを残すものの瑞々しく映え、逆に白いハンカチは朱色に汚れた。
 そのハンカチを『女王』が投げ返す。ローエングリンはそれを受け取らず、ハンカチはゆっくりと床に落ちた。
「それにしても異様なものだな、この光景は」
 『女王』は廊下の壁面、天井を見回した。所々に四角い包装物と小型の機器が貼り付けられており、あたかも獣避け、もしくは心霊的な結界のようだった。
「プラスチック爆弾の類か。あからさまに」
「その通りです。もし私に近づいたのなら、この全てが同時に爆発します。たとえ貴女でも、これ以上前に進めば回避することは難しいでしょう」
「君の言う通りだ。陰島の爆弾を避けるのにさえ全力を使ってしまったのだからな。しかしローエングリン、その爆発には君自身も巻き込まれてしまうのでは無いか?」
 無表情に、そして力強くローエングリンは答える。
「覚悟の上です」

 次→「嘘」 Part2

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