不思議の国の軟体鉱物

2017-11

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『Respective Tribute』 第7章「嘘」 Part2

 前→「嘘」 Part1

「そうか……」
 ふふっ、と『女王』が小さく笑った。だが何か刺激を感じたのか、その顔は不意に歪み、眉間に皺が寄る。
「全く、おかしなものだと思わないか。魔力を行使するのを前提に作られた我々でも、自身の力に身体が耐え切れるわけでは無いというのは」
 『女王』はドレス越しに右太股を擦る。
「陰島を蹴り離したこの右足、今も痛む。私でさえこうなのだから、彼らはどれほどの痛みを感じていたのだろうか。陰島も神崎も、どんな痛みに耐えたのだろうか」
 見せ付けるかのように、『女王』は左手を開いて前に伸ばした。
「この傷を見ろ。泣き叫んでいた神崎が付けた傷だ。痛みも、恐怖も、彼らの意志の前ではさほどの抑止にならない。それどころか、それらを乗り越えようとする心がより強い力を与えるのだと、私は身を以って教えられた。それならば……ローエングリンよ、私も彼らと同じになれるのだろうか」
 ローエングリンは『女王』の全身を改めて見た。顔以外の全身が血に塗れているが、その全てが殺めた者の返り血で無いのは確かだった。左手だけで無く左肩でも、傷口が艷めいていた。
「陰島と神埼によって、私の四肢はもはや満足に動かせなくなった。しかし彼らのような闘志があれば、それに呼応する魔力の助けで充分な威力を保つことが出来るだろう」
 左手を降ろし、『女王』は言葉を続ける。
「私は、そうでありたい。敬意を払うべき人間のようでありたい。彼らの与えてくれたこの傷は、痛みは、私を彼らと同じ高みまで昇らせてくれるだろうか」
「『女王』、貴女は既に頂点にあります。貴女が彼らに勝利したことこそ、その証明です」
「本当にそうであれば、君の仕掛けた姑息な結界など恐れるに足りないはずなのだ。しかし、今の私にはそこまでの勇気は無いのだよ、ローエングリン。私は勇敢でも、愚かでも無いのだから」
「謙遜はお止め下さい。貴女は勇敢です。実際、私も不安なのです。貴女が爆発物を物ともせず、私の首を掻き切るのではないかと」
「そこまでの蛮勇を私は持ち合わせていない。難しいものだな、染み付いた保身の価値観と彼らから学んだ捨身の価値観を両立させることは」
 『女王』は微笑を浮かべたまま、静かにローエングリンを見据える。ローエングリンも同様に『女王』の目を見つめ返すが、その心中ではある行動を待っていた。
 沈黙の時間、静寂の空気。激情は両者共に無いとしても、一触即発の緊張は間違いなくあった。どちらかが動いた時、戦いが始まる。そして先に動くのは『女王』の方であり、『女王』自身もそれを許容しているはずである。ローエングリンはそれを読んでいた。
 『自由の女王』と『守護の王』、それはただの称号であったが、お互いの本質を表す言葉には違いなかった。自分が名の通り「守護」を続けるのと同様に、『女王』は名の通り「自由」で在らざるを得ない。性格以上の性質として、それは揺ぎ無い行動理念だった。
 加えて、ホンシアの狙撃も関係していた。今の『女王』の立ち位置は窓から離れていて、危険性は無いように見える。しかし狙撃ポイントを選ばないホンシアに対して絶対の保障など無いことを、『女王』も承知しているはずだった。
 進めば、爆死。留まれば、射殺。ならば、残された道は退避以外に無い。
 『女王』が退避行動を取るとローエングリンは確信していた。そしてそれこそが、彼の狙いだった。
 膠着状態を破るように、『女王』が溜息を吐く。
「いつまでも対峙するのは致命的なのだろうな」
 その通りだと、ローエングリンは心の中でほくそ笑む。
 早く、早く動き出せば良い。その瞬間、必ず隙が生まれる。一瞬でも、僅かでも油断してしまえば、俺の勝ちだ。だから早く、早く。
 焦るローエングリンの耳が、奇妙な音を捉える。彼は思わず唾を飲んだ。みしり、みしりと、まるで見えない何者かが床を軋ませるような音。音の次は視覚的に、床に走る亀裂となってそれは現れる。
 間違い無く、それは『女王』の退避行動。プラスチック爆弾の貼り付けられた一帯を切り取るように、彼女の振動破砕が亀裂を走らせて行く。廊下ごと無数の爆弾を落下させるための、意図ある破壊。
 危険を排除するという退避。醜態無き逃亡。だから『女王』は誇らしげに破砕を続けているのだ。勝利を思い描いているかのような、薄ら笑いを浮かべて。

 そしてそれは、決定的な油断だった。

 次→「嘘」 Part3

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