不思議の国の軟体鉱物

2017-05

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『Respective Tribute』 第7章「嘘」 Part5

 前→「嘘」 Part4

「『女王』……!!」
 そう呟いたアリスが、堰を切ったように中庭へ向かって加速する。だが1秒の差も無く、その身体にカレンの蹴りが打ち込まれた。
「くはっ……!!」
 声を漏らし、蹴りの作用であらぬ方向へと飛ばされるアリス。それを追って、カレンの第2撃。寸での所で方向転換をして、アリスはそれを避けた。
「当たったのが爪先じゃなくて良かったわね、アリス。私にとっては、嬉しくないけど」
 言葉と共に連続で繰り出され、止まることを知らないカレンの蹴り。スズメバチのように執拗に、アリスを追い立てる。
「あの方は貴女に会いたいと思っているようだけど、そんなの関係無い。邪魔者は全部、消す」
 攻撃はかわしつつも、アリスは次第に西へ西へと追いやられていく。仕返しの反撃は赤い靴によって受け止められ、無力化される。
「上からなら!!」
 その言葉と共にカレンよりも高く上がり、頭を狙った一撃を打ち出したアリス。しかしその攻撃も垂直に蹴り上がったカレンの右足によって防がれてしまう。
「愚かなアリス。宣言された攻撃なら、受けられるのは当然」
 左足による反撃を回避し、アリスは加速する。カレンの頭上をすり抜け、ローエングリンと『女王』が守と攻を噛み合わせているその真上を通り過ぎ、彼女は東棟の屋根に降り立った。カレンもそこから少し離れた位置に降り立ち、2人は対峙する。睨み合い、そして再び応酬が始まった。
 その場に1人、残されたホンシア。そして彼女は、中庭へと向き直る。
 眼下には、撃つべき敵。彼女はそこに、何かの終わりを見出しつつあった。
 両親の会社の破綻。そこから始まった企業買収は確実に家族の富、幸せ、そして心を蝕んでいった。資本家たちにより日常は養分と化し、ホンシアは全てを失った。一番大事な、両親の命さえも。
 哀れな少女は、己の魔力を復讐の手段とすることを決めた。彼女の適性はそれを充分に可能とし、数年の後、彼女は狙撃手として最初の仕事を成し遂げた。
 殺した相手は、両親の会社の買収において中心的な役割を果たした人物。そして彼女は私怨と依頼の中、次々と殺していった。両親の死に間接的に関わった人間たちを。資本主義の名分を掲げ、奪い続ける人間たちを。
 その果てで彼女が感じたのは、喪失だった。
 ホンシアは今までの道程を思い出しながら、ゆっくりと身を伏せ、銃を構える。
 彼女は思う。これ程の大物を狙撃することは、もう二度と無いだろうと。では次は、誰を撃てば良い? 撃つべき相手が、自分には残っているのか?
 復讐のために銃を構える機会など、もはや訪れないのかも知れない。この瞬間だけが辛うじて、そう呼べなくも無いだけで。
 今が潮時なのだ。殺す相手を選ばない冷徹な狙撃手として生き続ける覚悟など無い。だから、彼女は新しい生き方を探さなければならなかった。かつて復讐を選んだ、少女の日と同様に。そして、そのための転機が必要だった。狙撃手を辞める理由に足る、大きな出来事が。
 息を整えながら、素早く動き回る『女王』を捉えようとするホンシア。もしこの一撃が当たったなら、自分は解放されても良いのだと。そう信じて、彼女は狙いを定める。
 多くの人間が殺害に失敗した目標。憎しみと羨望を受ける資本の象徴。それを撃ち抜く以上の成功など、狙撃手としての自分には存在しない。だから、終わらせても良い。そう、終わらせて良いのだ。新たな道への恐れを、在りし日々の記憶が掻き消してくれるから。平和な日常の記憶が射殺という行為を肯定してくれたように、この仕事が誇りとなり、後の全てを肯定してくれる。生まれ変わることを許してくれる。
 彼女は想像する。新しい日々とは何か。新しい日常とは。新しい自分とは。
 狙撃手みたいな裏の仕事じゃなくて、真っ当な仕事で、普通の生き方をしたい。どうしよう、アリスにでも仕事を紹介してもらおうか。だけどあの子、普通の仕事なんて知らなそう。それでもあの子と付き合えば楽しくやれる気がする。それなら、お店でも開こうかな。今の貯金なら、小さい店くらい十分開けるし。服とかいっぱい並べて、アリスにモデルになってもらえば宣伝効果はありそうだし。今まで頑張ったんだから、それくらいは贅沢じゃ無いよね。
 スコープ越しに見える『女王』はあまりに速く、捉えることが出来ない。それでもホンシアは狙い続ける。機会を待ち続ける。ただ1発、1発撃ち込めれば終わるのだから。
 必ず、その時が来る。その時が来れば、全てが新しく、全てが許され――――
 
 突然の激痛に、ホンシアは吐血する。夥しい量の血が、彼女の腹部から広がり始めた。

 次→「嘘」 Part6

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