不思議の国の軟体鉱物

2017-04

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『Respective Tribute』 第7章「嘘」 Part6

 前→「嘘」 Part5

 『女王』の猛攻に耐えるため、ローエングリンは己の集中力全てを視覚と聴覚に注いでいた。その2つが受信する『女王』の動作に対して彼の剣が的確に振られ、彼女はそれを避けつつ新たな攻撃動作へと移る。それが既に数分間、絶え間無く続けられていた。
 草を撫でるほどの低空で、『女王』はまるで氷上の舞姫のように高速かつ機敏に飛行している。だが踊るような飛行はそれとは正反対の醜いものにも似ていた――それはまるで蝿のようでもあった。
 その移動から繰り出されようとする攻撃を、ローエングリンは剣による牽制で防ぐ。一方的な防御、だがそれはむしろ彼にとって好ましい状況と言えた。『守護の王』の称号通り、防戦を得意としている彼にとっては。
 防戦を主軸として勝利するためには、相手の力が重要であった。力を浪費させ、疲弊させるか。それとも力を受け流し、隙を狙うか。だがローエングリンには分かっていた。『女王』は自分が守から攻に転じる瞬間を決して見逃さず、正確に急所を打ち抜いて来ると。自分自身が攻撃を行うようでは、決して『女王』に敵うことなど無いと。
 勝利に必要なのは、第三者の介入。たとえ己が攻撃に転じずとも、他の誰かが代わりに攻撃をしてくれるのであれば。誰かが、『女王』を殺してくれるのであれば――
 彼はそれを期待し、剣での牽制を続ける。『女王』が攻撃を仕掛けてくる方向へ、彼女が仕掛けるも早く刃先を向けた。攻撃が最大の防御と成りうるように、防御もまた最良の攻撃と成りうる。速度は相対的な要素であり、『女王』の神速に対しては不動の刃すら必殺の凶器なのだから。
 ローエングリンは淡い望みも抱いていた。『女王』が僅かに目測を誤り、自ら刃に触れてしまうことを。それは切り株に兎がぶつかるのを待つような、愚考かも知れない。それでも、その一瞬の怯みがあれば確実に『女王』は撃たれる。ホンシアの弾丸によって、必ず。
 『女王』の殺戮円舞の真っ只中において、彼はまだ生きることを諦めていなかった。相打ちですら覚悟していない。守り続けることによって、自らを貫き通すことによって、彼は『女王』の打倒を成そうとしていた。
 そんな彼の心理を嘲笑うかのように『女王』は寸分も刃に触れる事は無く、一方でローエングリンの身体に傷を付けることも無い。傍目から見ればローエングリンと踊りを愉しんでいるかのようにも見える動作。そして事実、彼女は笑っていた。
 殺す者と殺される者、歴然とした立場。それを意識してしまったローエングリンの思考に、逃げの一手が過ぎる。
 気まぐれで生かされているのかも知れない、防戦一方の現状。ここで一手、不意打ちの反撃を行ったならば。『女王』は予想外のことに対応できず、胴を裂かせてくれるのでは無いか。
 名案だと思い込む前に、彼はその妄想を頭から振り払った。防御で手一杯の現状から、さらに反撃動作を加えた所で当たるはずは無い。ただ守ること、それだけが自分に許されているのだ。
 何度目であろうか。『女王』の動作に合わせてローエングリンが剣を振った時、『女王』が彼から大きく離れた。剣の届かない距離で『女王』は直立し、獲物を狙うかのようにローエングリンを見つめ出した。
 僅かに余裕の生まれたローエングリンは剣を構えたまま、その意図を探ろうと訝しげに『女王』を睨み返す。そして彼はふと、気付く。何故『女王』は狙撃手であるホンシアがいる中、動きを止めているのだろうかと。『女王』は決して、死に直結するミスを犯さないはずなのに。
 何かが、おかしい。
 立ち止まっている『女王』は視線を上方に向ける。彼女が見ているのは、恐らく屋根の辺り。ローエングリンの背後、館の南側の屋根。そこにいるのは――
 その結論に達した時、ローエングリンは青ざめ、彼の手は剣に伝わるほど震えだした。『女王』が動きを止めたのは、もはや撃たれる可能性など無いから。彼女を撃とうとする者は、既に排除された。それが意味するのは、とても簡単で、単純な事実。
 ホンシアが死んだという、事実。

 次→「嘘」 Part7

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