不思議の国の軟体鉱物

2017-09

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『Respective Tribute』 第7章「嘘」 Part7

 前→「嘘」 Part6

「どうかしたか、ローエングリン」
 『女王』の澄み切った声に、ローエングリンは危うく平静を失いそうになる。
 残るは自分とアリス――だが、ホンシアが倒された今、アリスもまた――
 自らの選択が招いた、この末路。ローエングリンは心の中で謝罪の言葉を繰り返し始めた。
 すまない、すまない、すまない。
 彼は謝り続けた。陰島俊二に、神崎忠光に、周紅霞に、アリスに。
 誰もかも、何もかもが死んでしまう。『女王』の裁きは殺意ある者を決して許しはしない。恐ろしき『女王』の、その腕が届く場所へ多くの者を導いてしまった。そのことをローエングリンは謝り続け、だがそれで自分が許されるなんて微塵も思えなかった。
「顔色が悪いぞ。そんなことで私を殺せるのか?」
 ゆっくりと『女王』が近づいてくる。低速の接近、それは『女王』の暴速に勝機を感じていたローエングリンにとって、死の宣告に等しかった。
「そんなことで、誰が守れるのか」
 誰も守れない、誰も守れないのだろう。絶望がローエングリンの心に湧き始める。
 もう、何もかも諦めてしまえば良いのか。諦め、正当な裁きを受け、そして処刑されるべきなのか。
 戦意を失いつつあるローエングリンを『女王』の右足が蹴り飛ばした。防御することも考えられずにローエングリンは空中を舞い、数メートル先の地面に叩き付けられた。
「情けないぞ、我が臣下だった男がっ!!」
 その言葉が言い終わるまでの2秒足らず。その僅かな時間に『女王』の右手はローエングリンの胸倉を掴み、高々と持ち上げていた。
 絶好の機会、しかしローエングリンの腕は剣を振るうことを放棄していた。
「痛いのだぞ、ローエングリンッ!! 私は痛い、右脚が痛い、左腕が痛い、左足はもっと痛い! 左手はもはや握ることすら出来ない程に苦痛だっ!! だがな、ローエングリン、死んだ者たちはもっと痛かったのだぞ! それなのに、立派に戦った! 戦ったのだ、彼らは! 戦えば痛い、だがそれに耐えてでも戦う、それが戦士、それが人間なのだからっ!! ならば問おう、『守護の王』!! お前は今、何処が痛い!? どこが痛むというのかっ!?」
 『女王』は自身の背後へとローエングリンを放り投げ、即座に右足で蹴り飛ばす。再び宙を舞った彼は北棟の壁に当たり、落ちた。
「まさか心が痛むとでも言うのか、馬鹿なっ!! お前が悲しむことが何処にある!? 死んだ者たちが死んだ理由はただ1つ、私を殺そうとしたからだ!! そして彼らには、私と戦わない自由があった! だが彼らはそれを選択しなかった、自分の意志でなっ!! そして死んだ!! 意志を貫き通して死んだっ!! 彼らの死を悼むほどの心があるなら、何故お前は戦わない!! 彼らの遺志を受け継ぎ、彼らと同じように、何故戦わないッ!?」
 大声を張り上げて、『女王』がローエングリンへと歩み寄る。彼は起き上がろうとして、結局力無く、壁に背中をもたれ掛けてしまう。背中から伝わる激しい痛みと全身の痺れが、彼の身体を無力にしていた。
 彼の空ろな目が燃えるような『女王』の目と交差する。彼女は歩みを止め、静かな口調で言った。
「少し……済まない、私は気が立っていたようだ。冷静で無かった。謝ろう、ローエングリン」
 ローエングリンは瀕死で在りながら、思わず微笑んでしまった。情緒不安定と言える『女王』の変わり様が、何処か可笑しくて。
「戦わないのも君の自由なのだ。もし君が、私を殺すことを諦めるというのなら。それなら私は君を再び臣下として、頼るべき仲間として迎えたいと思う」
 馬鹿を言え、それなら俺は死ぬ。死んでやる。
 その返事を、か弱きローエングリンは言葉に出来なかった。
「だが、その前に1つだけ教えて欲しいのだ、ローエングリンよ。何故、君が私を裏切ったのかを」
 その言葉を聞いたローエングリンの脳裏に、懐かしい顔が浮かび上がる。断片的な面影が次第に1人の少女となり、彼はその名を口に出しそうになる。
 それを必死に押し留めて、彼は別の言葉を吐いた。
「『女王』……貴女はあまりに自由過ぎたのです。私は……危険だと判断しました。人間社会に対する過剰な介入、それには何らかの目的があり、それによって人間達、そして『構造体』と共に生きる者たち全ても危険に晒されると……私はそれを危惧し、貴女に……」
「アリスにもそう言ったのか、ローエングリン」
 微かに嘲笑を浮かべる『女王』の口元。
「私にまで嘘を守り通す必要は無いのだよ、ローエングリン」
 背筋に走る、悪寒。ローエングリンはある可能性に気付き始めた。
「君のその理由は、あまりに漠然とし過ぎている。私が思うに、君が私を殺すとしたらあの聖遺物に関する何かが理由だ。私が探索を命じた伝説の杯、聖杯。あの電子メールでそれについて仄めかしたのは、私を誘き出すと同時に聖杯を私に渡すまいという意志表示なのだろう? だとしたらローエングリン、君はもしや、聖杯が何処にあるのか分かったのか?」
 恐怖がローエングリンを震わせて行く。『女王』がもし、あの事に気付いているのなら――
「君は私の命令通り動いたはずだ……となると、存在するのは北欧近くか? 北欧……調べてみる価値はあるようだな」
 『女王』は嬉々とした表情を浮かべる。
「北欧といえば、ローエングリンよ」
 ローエングリンには、その笑みがまるで狙いを定めた槍のように思えた。
「――エルザは元気か?」
 その一言によって、ローエングリンはまさに心臓を貫かれたような感覚に陥った。
 間違いない、『女王』は、『女王』は知っているっ! 知っていて……
「知っていて……分かっていて俺に命じたのかっ!!」
 憤怒が胸に溢れ、喪失した戦意が一瞬で蘇る。ローエングリンは力の入らない脚をどうにか動かそうと、必死に力を込めた。無駄だった。
「そうだ、知っていた。最初から聖杯の在処は分かっていたのだよ、ローエングリン」
 ローエングリンは動かない脚を諦め、魔力に神経を集中した。浮き上がる身体、地面から離れた両脚は力無く垂れ下がる。
「殺す……絶対に、絶対に殺す……殺さなきゃ、アイツが、アイツが……」
「そう、君の調べ上げた通りだ」
 『女王』は微笑んだまま、言い放った。
「聖杯の在処は、エルザの心臓部だ」

 次→「嘘」 Part8

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