不思議の国の軟体鉱物

2017-10

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『Respective Tribute』 第7章「嘘」 Part8

 前→「嘘」 Part7

 一進一退の攻防を繰り広げていたアリスとカレンは、共に動きを止めていた。下から聞こえる大声、怒れる『女王』の叱責。その姿に2人とも釘付けとなっていた。
 アリスは『女王』を目で追う内に、建物の壁に倒れ掛かっている人影に気が付いた。夕日に伸びる建物の影、その先にいる力無き様子の誰か。
 彼女は目を凝らす。白い衣服、白い髪。懐かしい姿の男。
「ローエングリン……!」
 その正体に気付いたアリスは、一瞬で『女王』に向かう加速度を発生した。だが、一瞬で彼女に向かって蹴りが放たれた。
 脇腹を狙ったその足を逆方向への急加速で回避し、続くカレンの蹴りも後退によって避けるアリス。連撃の後、カレンはアリスから距離を取り、2人は再び屋根の上で対峙する。
「やっぱり、貴女を倒さないと『女王』の所へは行けないみたいね」
「今更? 本当に馬鹿ね、貴女は」
 カレンから冷ややかな笑いを受け、アリスはムッとした表情になってしまう。力任せに突進したくなる衝動を抑えながら、アリスは現状を整理し始める。
 カレンは強いわ、とても。だけど攻撃はかわせないわけじゃないし、気長に頑張れば倒せるかも知れないわ。けれど、それだと時間が掛かり過ぎちゃう。ローエングリンを助けなきゃいけないのに。だから、今すぐ倒せる方法、何か、そう……
 アリスは以前、ローエングリンに教わった言葉を思い返す。相手の考え付かないことをしろ。そのローエングリンの言葉が今の状況ではとても有効であると、彼女にはそんな予感がしていた。
 攻撃は全て、カレンの両脚によって防がれていた。彼女の足捌きと『構造体』製の頑丈な靴は、鉄壁の防御と言っても過言では無い。しかし、アリスはそれ以上の防御を知っている。相手の力を受け流す、守護の剣を。
 彼女は考える。ローエングリンの守護を破ったように、カレンの脚を無効化する方法を。防御を防御で無くする方法、攻撃を防がれない方法を。カレンのための、必勝法を。
 カレンの右脚が上がり、アリスを挑発するかのように爪先で円を描き出した。一見隙だらけにも見える行動、しかしアリスの攻撃に対応出来る速度をあの脚は持っている。
 むやみに接近すれば返り討ちに遭いかねない。アリスはそう判断し、すり足で1歩前進する。足に伝わる瓦の硬さ。それを靴越しに感じた時、彼女は不意にある手段を思い付く。
 私が接近出来ないとしても、他の物なら……
 その閃きを実行するため、アリスは右足を後ろに下げ、野球のバッターのようにバールのようなものを構えた。カレンは吹き出し、愚か者をあざ笑うような目でアリスを見る。
「こんなに頭のおかしい子だとは思って無かった。大丈夫なの、アリス」
「何がかしら?」
「貴女の頭。そんな所で構えたって私には届かないわ」
 カレンとアリスの距離は3メートル以上。バールのようなものはカレンの右足にすら当たることは無い。
「確かにそうかも知れないわ。でもねっ!」
 アリスはバールのようなものを大きく振り、自身の右にある瓦屋根の頂上を抉る様にして吹き飛ばした。
「なっ……!?」
 瓦とその破片がまるで激しい水しぶきのようにカレンに襲い掛かかる。だが右足の一蹴りで、彼女は自身へと飛来する大きな破片をほぼ全て破壊した。
 残った細かい破片がカレンに当たり、そして――
「ア……」
 破片と共に加速していたアリスは、体勢を低くしてカレンの足元にいた。
 振り下ろされるカレンの右脚、振り上げられるアリスの武器。高速の両者が激突した瞬間、美しい脚が血を撒き散らしながら、曲がるはずの無い方向へと折れた。絶叫が夕空に木霊する中、アリスは続く一撃を残った脚に放つ。痛みで無防備だったカレンの左脚が右脚同様に折れ、彼女は無様にも屋根へと転倒した。
 勝利を得たアリスは立ち上がり、壊れた人形のように無残なカレンを眺める。左から差し込む西日に目を細めながら、アリスは愉悦の笑みを浮かべていた。

 次→「嘘」 Part9

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