不思議の国の軟体鉱物

2017-10

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『Respective Tribute』 第7章「嘘」 Part10

 前→「嘘」 Part9

 操り人形のようにぶらりと宙に浮いたローエングリンが、右手に握った剣を魔力による加速度発生で無理矢理に振りかぶる。しかしその腕は、『女王』に容易く掴まれてしまう。
「何故……何故俺に命じたっ!? 何故俺にアイツを殺させようとしたっ!!」
「選択権を与えたかったのだ。君にも、エルザにも」
 そう言ってから『女王』は掴んでいた腕を放し、その拳でローエングリンの腹を強く突いた。その一撃はローエングリンの集中を切らし、彼は弛緩した身体で再び壁に倒れこんだ。
「『構造体』で過去に造られた物なのか、それとも本当に神の奇跡なのか……どちらにしろ、聖杯には超自然の分子操作を発生させる力がある。そして、その力を利用して造られたシンボルこそ、エルザだった。不安定な組成を聖杯の力で無理矢理に保たされ、聖杯が無ければ肉体が滅んでしまう哀れなエルザ。君が考える通り、聖杯を手に入れるためにはエルザを殺さなければならない。なればこそ、手に入れるべきかどうかの『自由』を君に託したかった」
「自由……」
「そうだ。君が私の命令を無視し、聖杯の探索を放棄するのであればそれでも良かった。逆に君が命令に忠実であるようならば、エルザへの説得を行わせる考えもあった。聖杯のために彼女がその命を捧げてくれるように」
「俺がそんなことを、するとでも……」
「思ってはいない。だが、第3の選択肢を選ぶ可能性は充分にあった。聖杯の在処を知った君が、私への謀反を企む可能性。そしてそれは、現実になった」
 ローエングリンは苦々しく表情を歪める。自分の行動が読まれていた腹立たしさ、胸が詰まるような痛みが込み上げてくる。
「この場合、君を殺す正当な理由が充分に生まれる。そして君を殺したならば、エルザは必ず私へ反旗を翻すだろう。そうなれば次は、エルザを殺す正当な理由が生まれる。そして最後に、正当に聖杯が手に入る」
 ローエングリンにとって、それは吐き気を催す論法であった。
「私とて咎の無い同族を殺す権利は持っていない。それ故、聖杯を手に入れるためにはエルザ自身が罪を犯す必要があった。その呼び水となることも考えた上で、君に聖杯探索を命じたわけだ。エルザと懇意である君こそ、エルザに罪を負わすことの出来る者であると考えて。流石にここまで都合の良い方向で事が進むとは考えていなかったが」
「悪魔め……」
 その言葉に、『女王』はさも嬉しげに微笑んだ。
「悪魔か、そう言われても仕方無いさ。だが、私を悪魔にしたのは君だ、ローエングリン」
「何を……」
「違うとでも言うのか? 君には選択肢があった。自由があった。その自由の中から君が選んだのは、君にとって最悪の選択だった。私への抗い、君とエルザを破滅に導く罪。それを選んだのは君自身なのだよ、ローエングリン」
「それを選ばせたのは貴女だ、『女王』」
「本気でそう思っているのか? 私は『自由の女王』の名に恥じぬよう、そして『女王』という分不相応な通称に足るよう、卑劣な策を避けてきた。せめて相手に選択権があるように、『自由』があるようにと。君にも相当な選択肢があったはずだ。私に抵抗するにしても、他の選択肢がいくらでもあっただろうに」
「他の選択肢だと……」
「教えてくれないか、ローエングリン。君は何故エルザの傍を離れたのだ? 最も守るべきだった者の傍を離れた、その理由は何だ?」
「アイツに辛い真実を知られぬまま、貴女を倒すために決まっている」
「それが過ちなのだ、ローエングリン」
 思いも寄らぬ言葉に、ローエングリンは呆然となった。数ヶ月間、悩んだ末の結論。エルザを傷つけずに、全てを守り抜くための選択。その決意が今、言下に否定されたのだ。
「何故君は、エルザに真実を知らせなかった? エルザが真実に傷付くことが怖かったのか? しかしだ、ローエングリン。私には過酷な真実に負けるほど、エルザは弱く無いように見える。もしかしたら、だ。君よりも遥かに強い心を、彼女は持っているのかも知れない。心だけでない。聖杯の加護は彼女を戦う者としても高めているはずだ。エルザを守る最も良き方法は、エルザに真実を知らせ、エルザ自身に道を選ばせ、そして君はそんなエルザの傍を片時も離れない。それで、それだけで良かったはずだ。彼女がどんな選択をしようとも、君はエルザを守り、エルザは君を支えただろう。エルザにとっても君にとっても、それこそが最良の選択であったと私は思う。だから、問い続けよう。君は何故、そうしなかった? 何故君は今、エルザの傍にいない?」
「俺は……」
 言葉が、続かなかった。

 次→「嘘」 Part11

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