不思議の国の軟体鉱物

2017-07

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『Respective Tribute』 第7章「嘘」 Part11

 前→「嘘」 Part10

「真実を隠し通し、たった1人で全てを背負い込み、君は一体、一体何が守りたかったのだ? 答えろ、『守護の王』、答えろ、答えるんだローエングリンッ!!」
 『女王』の怒声を受け、ローエングリンの思考は溢れ返る。想起される様々な光景、その中にあの日があった。数ヶ月前、アリスと別れたあの冬の日が。
 あの日、ローエングリンはアリスを巻き込もうと考えていた。エルザを守るために、共に『女王』と戦おう。そう言うつもりだった。だが、彼は出来なかった。死地に誘うことなど出来なかった。
 何かが怖かった。誰かが怖かった。彼は次第に分かってきた。自分が本当に恐れていたこと。自分が一番見たくなかったもの。
 それは大切なものが、汚されること。傷付いてしまうこと。
「『女王』、俺は……」
 幸せだった、あの日。3人の時間、その記憶。
「傷一つ、付けたくなかったんだ。アイツにもアリスにも、あの場所にも」
 エルザに真実を伝えたならば、エルザと共に戦うことを選んだのならば、彼女の生命にとってより良い方向に進んだのかも知れない。だが、真実や現実は少なからず彼女の無垢を汚し、彼女の構造体『トルソー』は『女王』から身を守るための要塞と化してしまう。きっとアリスまで巻き込み、全てが戦いへと向かってしまう。
 自分はそれを避けたかったのだと、ローエングリンはついに気付いた。それを見て、心を傷つけたくなかったのだと。だから彼は秘密を守り続けた。全ての脅威を自身の胸の内にしまい、彼は『守護』しようとしたのだ。エルザを、アリスを、あの場所を。そして自分の心を。
 相手がたとえ、絶対に敵うことの無い者だとしても。
「だが、怖かった。相手が貴女だったから。守りきれる自信が無かった。貴女がアイツを殺しに来るのを待ち構えるなんて事は、とても耐え切れそうになかった。怖くて、怖くて、どうしても」
 ローエングリンは瀕死の縁で自分の本心を受け入れていた。恥と言える臆病さの吐露。多くの死と失敗によって、彼にはもはや虚勢を張り続ける力など残っていなかった。
「耐えられなかったんだ。貴女からエルザを守れないかも知れない、そんな想念に。だから俺は1人で行くことにした。耐え切れなくなるその時が来る前に、貴女を殺すために」
 そう言って、ローエングリンは言葉を止める。彼の告白の間、『女王』は終始無言だった。ローエングリンの苦悩を受け止めているような、そんな神妙な表情で。
「それが……君の答えか」
 静かに、『女王』が口にした。
「『女王』、私は弱い者なのです……」
 自嘲気味に笑ったローエングリンに対し、『女王』はゆっくりと首を振った。
「ローエングリン、弱さは誰にでもある。君は私への畏れの中、エルザを傷付けずに全てを済ませる道を探した。恐怖に耐えられなかったのだとしても、君は逃げ無かった。守るべきものを守り通そうとした。耐えられないものを受け流し、自分が耐えられる適切な『守護』を君は選んだ。その苦悩は計り知れないものだっただろう。何度も己に問い掛けただろう。だがその結果エルザに何も知られること無く、君は私にここまでの傷を与えた。まさしく『守護の王』に相応しき、敬意を払うべき精神なのだと思う。だが――」
 『女王』は言葉を切った。
「それは本当に君1人が背負うべきものなのか?」
 ローエングリンは微笑み、こう返した。
「他の誰かに背負わせるわけには、行かない」
「だが、君は死ぬ。そうしたら、誰がエルザを守るというのだ」
「死ぬ気なんて、最初から無かった。俺が死んだら、やはり」
 『女王』の背後、屋根の上で黄昏ていく空を見つめながら。
「アイツは、泣いてしまうから」
 その時、空と屋根の間に彼は発見した。まだ終わりで無いことを告げる、勇姿を。
「……『女王』」
 その姿が彼に希望を呼び起こさせた。諦めつつあった、命。それはまだきっと、生きている。
「何だ、ローエングリン」
 誰がエルザを守る? きっと誰も守ってはくれない。だが、ローエングリンは信じようと思った。『女王』を倒す者ならばまだ生きていると。それを託せる友が、自分には居るのだと。
「お別れです」
 魔力による加速度を発生させ、ローエングリンは右手を首の高さまで上げた。剣の刃が顎の下、喉元のすぐ近くで光る。
「何のつもりだ、ローエングリン」
「……」
 お互いに微動だにしない、沈黙の緊張。真意を探るように凝視する『女王』の目を、ローエングリンは黙って見つめ返す。
「何を考えている、気に入らない、気に入らないことばかりだぞローエングリンッ! 貴様は孤独に戦い、孤独に死ぬつもりかっ!? 自身の死すら、他者の手を借りぬと言うのかっ!!」
 『女王』が怒りと共に全ての注意を自分に注いでいることが、可笑しくて。ローエングリンは思わず口元に笑みを浮かべながら、祈った。
 奇跡の弾丸を。偶然の命中を。救いの、一撃を――
 
 ――そして、ホンシアの弾丸が『女王』の右肩を掠って行く。
 
 次→「嘘」 Part12

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