不思議の国の軟体鉱物

2017-08

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『Respective Tribute』 第8章「女王」 Part3

 前→「女王」 Part2

 『女王』の爪先がアリスの鳩尾を蹴り上げる。苦しさが一気に込み上げて来て、彼女は胸を押さえて膝をついてしまう。
「冷静になれ、アリス。怒りに囚われたままでは、集中など出来ない。集中出来なければ、魔力を発生するための正しいイメージも思い浮かべることは出来ない」
 けほっ、けほっ、とアリスが咳き込む。それでもその目は『女王』を睨んだまま、逸らしていない。
「そうだなアリス……話をしよう。話、そう話だ。話したい事が沢山ある。聞きたいことも沢山ある。どれから話せば良い? 何から聞けば良い? そうだな、アリス、そうだ、人間の話をしよう。人間だ、人間。我等が尊敬を刷り込まれた、あの特別な存在たちについて」
 唐突に語り始める『女王』を、アリスは訝しげな眼差しで見つめる。
「人間の話ですって……?」
「そうだ、人間だ。君も多くの人間を見てきただろう? 友人、隣人、待ち行く人々、メディアに映る著名人、近き遠きを問わず、多種多様な人々と」
 アリスの脳裏に浮かぶのは、奈々子、ホンシア、そして――
「『構造体』のプログラムは我々シンボルに彼らへの敬意を植えつけた。だが私にはある疑問がある」
 そして何故か、アリスはローエングリンやエルザの顔も思い浮かべていた。人間でない、彼らの顔を。
「一体何なのだろうな、アリス。我々と、人間の違いは」
「私たちと……人間の?」
 それはアリスにとって考えたことの無い疑問だった。自分たちと人間が違うものだと自覚していながら、彼女はそれを意識することなく過ごしてきた。街を歩く時も、奈々子といるときも、近くにいる者たちと自分が違う種族である事を意識したことなど、ほとんど無かった。
 唯一、空を飛んでいた時は自分が人間とは違うことを意識していたかも知れない。しかし、アリスがホンシアと出会ったのは空だった。同じことを、人間がしていた。
 自分と人間との違い。その答えを、彼女は導き出す。
「そんなもの……無いわ」
 それが、答えだった。
「正解、いや半分正解だアリス。その通り、人間と私たちは本質的には非常に似通っている。たとえ骨格や細胞の一部が機械であっても、寿命が人間よりも長くとも、精神的に極端な側面があろうとも、私たちは人間と言って遜色無いほどの模造物だ。だが、それでも我々と人間には違いがある。分かるかアリス、その違いが」
 自分が発見した答えが素晴らしいものであると確信してるかのように、『女王』は得意げに笑む。その顔が、アリスを不機嫌にさせた。
「分からないわ、そんなもの」
「数だ、アリス」
 一瞬、アリスには何を言ったのかが分からなかった。
「数?」
「そう、数だ。人間は数が多い。今生きている人間たち、今まで生きていた人間たち。現在と歴史の中に数十億数百億の人間が生きていて、その積み重ねの上に今の人間がいる。だからこそ人間は尊敬に値する価値がある、敬意を払うべき種族なのだ」
「……意味が分からないわ」
 落胆したかのように、『女王』が肩を落とす。
「良いか、アリス。人間とは探索する生き物だ。自身の可能性を。学術的な真実を。より多くの有益な情報を。その探索を今もなお、90億もの人間が行っている。その数で以て、広く、深く。神の作りし、この世界を」
 神? 神様ですって?
 アリスはその単語にとても胡散臭いものを感じた。その言葉の違和感が亀裂となり、彼女には『女王』の自論が理解する価値も無い、ただの偏執であるように思え始める。
「そしてその探索の結果をお互いに反映し、人間は繁栄して行った。書物、建築、絵画、写真、映像、会話、他にも多種多様な形で自分たちの探索結果を他者へと伝え、人間はこの星で最も世界を知る生物となった。知能では人間に勝っているというイルカでさえ、人間ほどは世界を知らぬだろう。この世界の可能性を知らぬだろう。全ては人間という生物の数の多さと、それによる大規模な情報の収集・共有の為せることなのだ」
 自信溢れる語調で紡がれた『女王』の言葉たち。だが、アリスにとってそれらは無味乾燥な、それどころか否定の衝動が生ずるようなものであった。
「ということはだ、アリス。人間と共に生き、人間の社会に人間然として溶け込めば、我々も人間の数の内に入るようになるのでは無いか? 人間というシステムの一部としてその恩恵を受け、そして与えることが出来るのではないか?」
 「違う」と、アリスはどうしてもそう言ってやりたかった。だが、何が「違う」のか。それを説明する言葉が浮かばず、彼女は唇を噛む。
「そして人間の持つ精神、情緒の豊かさ、信念、それらを我が心に宿すことも出来るのでは無いか。己が夢、己が自由を貫く意志を。陰島のような、神崎のような、ホンシアのような――」
 ホンシア――その名が言葉の羅列に混じった時、アリスの中でイメージが湧き出す。もはや目を開くことの無い、血まみれの死体。それは説明不要の理由だった。
 溢れ出す否定の念に押され、アリスは叫んだ。
「違うっ!!!」
 さしもの『女王』も、その大声に驚いた様子を見せる。アリスは膝をついた体勢からゆっくりと立ち上がり、バールのようなものを構えた。

 次→「女王」 Part4

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