不思議の国の軟体鉱物

2017-10

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『Respective Tribute』 第8章「女王」 Part5

 前→「女王」 Part4

「一体……何のことかしら……」
 苦しげに言葉を吐くアリス。襟元を掴む力がさらに強まるのを彼女は感じた。
「知れ、そして、刻み込めるが良い!!」
 襟元を異常な力で引っ張られ、強烈な勢いで中庭の地面へと投げ飛ばされるアリス。地面に激突する寸前まで必死に抵抗する加速度を発生させたが、減速し切れなかった勢いによって彼女は背中から地面に叩きつけられた。
「いたた……」
 背中をさすりながら起き上がるアリス。目の前に立つ『女王』の姿を発見し、彼女はすかさず立ち上がり、身構える。
「君が今見るのは私ではない、アリス。後ろを向け、向くんだ」
 哀れみと怒りを入り混ぜたかのような表情で『女王』が言った。アリスはゆっくりと、自身の背後を見る。
「ローエン……グリン?」
 振り向いた先。日没と共に点灯した外灯に照らされ、建物の壁を背に倒れている、血まみれの男。
「ローエングリンッ!!」
 その遺体に駆け寄るアリス。真っ白な衣服と髪、それは彼女の記憶にあった懐かしい姿。
「ローエングリン……」
 ホンシアの時と同じように、彼女はローエングリンの両肩を掴み、揺さぶった。それが無意味である事は、彼女自身分かっていた。それでも、望みを捨てたくは無かった。
「どうして……どうしてなのっ!!」
 エルザを守る事を辞めてまで『女王』に歯向かって、それで結局死んじゃうだなんて……
「ローエングリン、貴方は……」
 どうして……どうしてそこまで……
「聞け、アリス」
 背後からの声。殺戮者の声。
「ローエングリンは知った。私が探す聖杯が『トルソー』の城主、エルザの体内にあることを。そして、それを私が狙っていることを」
「え……?」
「私が聖杯を得るためには、エルザを殺す必要があった。ローエングリンはそれを食い止めるために、私に挑んだ。人間達の助力を得て、自らの考えうる最良の戦術を駆使し、彼は私を倒そうとした」
 それじゃあ、それじゃあローエングリンは……
「全ては、エルザを守るためだ」
 その言葉を聞いた時、呆然としていたアリスの中で全てが形となった。そして、瞳から流れ出す、止め処無く、止め処無くこぼれ落ちる、涙。
 自分とローエングリンの約束。それは果たされていた。それは守られていた。
 『守護の王』は守っていた。約束を、大事な人を。
 そして、嘘を。
「どうして……どうして言ってくれなかったの。ねぇ、ローエングリン、答えてよローエングリンッ!!」
 アリスには分からなかった。エルザを助けるためなら、いくらでも力を貸したというのに。もっと早く、もっと強く、力を貸せたというのに。それなのに、どうしてローエングリンは言ってくれなかったのか。
 巻き込みたく無かった――ローエングリンの言葉が、彼女の脳内で響く。
 そう、アリスは既にその答えを聞いていた。ローエングリンは最後まで自分を巻き込みたくなかったのだ。エルザを守るための戦いを、自分独りで終らせるために。きっと、アリスにそれを背負わせないために。
「どうして……」
 気付いてしまったローエングリンの思い。それでもアリスは、背負わせて欲しかった。一緒に戦おうと、そう言って欲しかった。それがたとえ、アリス自身の夢を掻き消してしまったとしても。
 私の……夢?
 あの時。あの冬の日。窓の外ばかり見ていたローエングリンは、私を止めたりしなかった。日本に行く事を楽しみにしていた私を、ローエングリンは止めなかった。約束をして、見送ってくれた。
 その先にあるものを、私は期待していた。きっと、夢見てた。だからローエングリンは止めなかった、止めなかったのよ。一緒に『女王』と戦う事を思いながら、きっとそれを押し止めて、私を見送ってくれた。
 私は、それに気付く事が出来なかった。何も、何も出来なかった。ローエングリンにも、ホンシアにも、私は、私は……
「私は……」
 涙は止まらない。無力に泣くだけで、アリスは何も出来ず、ただ、ただ。
 泣いて、泣いて、泣いて。
 それを咎めるように、声が響く。
「君はどうする、アリス」
 どうする?
「どうするんだ、アリス」
 どうするって……そんなこと……
 そんなこと、さっきから決まってるわ。

 次→「女王」 Part6

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