不思議の国の軟体鉱物

2017-10

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『Respective Tribute』 第8章「女王」 Part8

 前→「女王」 Part7

「鈍器での攻撃は破砕を、刃物での攻撃は加工を。全く以って理に適った魔力の発生だ」
「私は当然のことをしただけよ」
 駆け出そうとする感情を必死に抑えながら、アリスはそう答える。何も考えずに接近するには、ルーシーとの距離は遠すぎた。
「当然か、そう、それで良いのだ。この世の法則に合うイメージを当然のように思い浮かべることが出来る、そのことが重要なのだよ、アリス」
 またルーシーの演説が始まったわ。
 アリスは呆れながらも、攻撃手段を考える時間が出来たことを幸運に思った。
「魔力、人のイメージを実現する神秘なる力。だがその正体は所詮、人間の思考の検出及び、エネルギーの伝達と変換を行うエーテル粒子と、それらからの情報を計算し、適切なエネルギーを送信する『構造体』によって構成された、一種の無線送電システムに過ぎない。そこにはこの世の物理法則を無視する原理など、微塵も存在しない。しかし、しかしだアリス。だからこそ魔力の行使には、現実と乖離していない明確な認識が必要なのだ。実現可能なイメージを作り出すための、正しい理解が。その点において人間は我々を凌駕している。我々に匹敵する魔力を発生出来るほどに」
 何か投げ飛ばすことが出来るものは無いかと、アリスは考えを巡らせていた。ホンシアの狙撃銃のように硬い物体を高速で命中させられれば、ルーシーに充分なダメージを与えられる。
「一体、彼らはどうしてそれほどまでの認識を持ちえたのか。その答えは彼らの世界にあった。私はね、驚愕したのだよアリス。人間の社会がこれほどまでに満ち溢れた世界であることに。そして実感した。彼らには魔力など必要ないのだと。そんなものが無くとも、人間は空を飛び物を造り変え、多くの作品と技術を生み出してきた。僅かな力しか発生できない肉体からどのようにしてそこまで到達したのか。それは人間が持つ認識が、その精神が、世界の仕組みを模索し続けたからだ」
 自動車の残骸は飛ばすには大きすぎた。振動加工で小さくすれば最適の武器に成り得るが、ルーシーに気付かれずにそれを行うのは難しい。アリスはそう判断した。
「適切な方向に制御することで、弱い力でも世界を望む形に変化させられる可能性。そんな可能性の探求は世界の理をいくつも明らかにし、その積み重ねが今の人間社会を形成した。世界を解明し、世界を改良する。それが人間の本質なのだ。その中で、人間は気付いたはずだ。起動力となる弱い力の方向を決め、それによって連鎖的に発動する大きな力を利用するためには、自分たちの精神が重要であることに」
 自動車本体が駄目ならば、破壊した際に散らばった破片はどうか。アリスはルーシーに気付かれないように手頃な大きさの破片を探したが、どれも小さすぎ、効果は期待出来そうに無かった。
「人間の精神は力の方向を決め、力を制御する。そしてそこには、何かしらの指針があるはずだ。私が思うに、それは自然であり、物理現象であり、他者であり、記憶であるのだろう。無視できない、尊重しなければならない何か。それらに対する敬意が人間の精神を高めた。そう、敬意が、敬意が重要なのだよアリスッ!!」
 ルーシーが一際大きな声で名を呼んだため、アリスは集中力をルーシーへと傾けてしまう。
「我々に植え付けられた人間への敬意。漠然としたその価値観は、我らを人間へと向かわせた。恐らくは人間が持つ多様な敬意、様々な価値観を学ばせるために。それによって我々は力の方向、つまりは選択肢が無限に等しい程に存在することを知った。その自由から敬意ある選択を、己の力をどのように行使するかを考え、結果を想像する。その先にある可能性の結実、現実の変動こそが、未来なのだよ」
 未来――未来ですって?
「『構造体』を造り出した者は、精神の重要性を理解していたに違いない。さもなければ我々を人間に似せることも、人間に近づけることもしなかったはずだ。『構造体』の造物主が何者であるにしろ、彼らは知的生命体の持つ知性、精神を重んじていた。いや、これもやはり敬意していたと言うべきであろう。精神に対する敬意。力を制御し、可能性を発現させるのは精神であるのだから。破壊を創造に転化し、全ての虚無に価値を定めるもの。知性、精神、価値観。それが未来を未来とし、意味を創造するシステム。敬意とは、そこに流れる血液だと言えるのでは無いか」
 ルーシーの自論を聞きながら、アリスは自身の中で込み上げる不愉快さが集中を削いで行くのを感じた。人間の話も『構造体』の話も、今の彼女にとってはどうでもいい話であった。
 彼女を動かす意識は、怒り。ローエングリンを、ホンシアを殺された怒り。どんなに高らかに未来を語ろうとも、ルーシーはその手で彼らの未来を奪った。アリスにはそれが許せなかった。

 次→「女王」 Part9

スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://longstraight.blog79.fc2.com/tb.php/471-30014a86
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

 | HOME | 

FC2Ad

 

『Respective Tribute』

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

リンク

このブログをリンクに追加する

プロフィール

kuroron

Author:kuroron
黒髪ロングストレート好きの20代メンヘラです

目撃者数

 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。