不思議の国の軟体鉱物

2017-08

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『Respective Tribute』 第9章「バールのようなもの」 Part1

 前→第8章「女王」 Part10

 無数の配線がまるで蔦の様に絡まりながら、仄かな灯りを放つ廊下の奥へ向かって伸びている。
 人工物が人工物に侵食されているこの廊下は『構造体』の中でも異質な空間であり、その先にいる人物もまた、異質な存在であった。
 時折、アリスにはその人物が魔法使いか何かに思える時があった。それはその人物がいる部屋へ続く、この不気味な廊下のせいかも知れなかったし、彼自身の言動のせいかも知れなかった。何にしても、その人物と会うことは特別なことであった。
 特別な日。『構造体』の外部へと旅立つ前夜。アリスは言い知れぬ期待と不安に眠れず、その人物の部屋へと向かっていた。大小のケーブルを視界の隅に入れながら、異界へと迷い込むかのように。
 彼女は明かりの中へと足を踏み入れた。幾つものモニターに描かれる折れ線のグラフ、電子音を撒き散らす機器、螺旋を映し出すホログラム。アリスには無意味な情報の集積。その中央には机、椅子、大きなディスプレイ、コンピュータの端末がそれぞれ1組ずつ、使用者が向かい合うように配置されている。
 入口とは反対側にある1組を使用している人物。キーボードを叩きながら、ディスプレイを注視している男性。ボサボサの黒髪に無精ひげを生やした、30代前後の陰気な容姿。『機関長』と呼ばれている『構造体』の技術的な管理者であり、アリスにとっての魔法使いであった。
 アリスは入口側の椅子に座り、ディスプレイ越しに男の顔を見る。表情は上手く読み取れなかったが、彼女が知る限り機関長が何らかの感情を表したことは無かった。まるで彼自身が、この部屋にある機械の一種であるかのように。
「眠れないのか、アリス」
 意外にも、先に言葉を発したのは男の方だった。
「それはそうよ。明日にはもう、こんな場所にはいないんですもの」
 そう言いながら、アリスは何故か寂しさを感じていた。閉鎖的な『構造体』に愛着があったことに、彼女自身戸惑っていた。
「……どうして、私が出て行くのを許してくれたの?」
 『女王』の代理。果たすべき任。それが如何にくだらないものであるか、アリスは実感させられた。だがそれでも、置物としての責務より自分の我侭が優先されたことに、彼女は疑問を抱いていた。
「どうしてなの……?」
 キーボードを叩く音が止み、しばしの沈黙。そして答えが発せられる。
「もはや、居場所など関係無くなっただけだ。外界にいようと『構造体』にいようと、権利も立場も変わりはしない。『女王』がそれを示した」
 その言葉は、城主の代理として『構造体』に留まり続けたアリスを否定するものであった。
「だから許さない理由など何処にも在りはしない。『女王』自身、君が代理の任を捨てる事を予想の範疇に入れていたのだろう」
 気に入らない話であった。自分が『女王』の掌で遊ばれている人形であるかのように思え、アリスは手元のキーボードを適当に叩いた。ディスプレイに滅茶苦茶な文字の羅列が表示され、彼女はその最後を「NO」の連続で締めくくった。
「ひとつ、考えて欲しいことがある」
 唐突に、機関長が切り出した。
「今日は妙にお喋りなのね」
「君と話せる機会も残り少ないかも知れない。それに、外の世界へ出る前に話しておきたいこともある」
「なんか、意外だわ」
 『構造体』での長い日々の中で築かれた、機関長に対するイメージ。それが融解するかのように、アリスの中で変化して行く。機械から生物へ、無機から有機へと。
「人間の世界には」
 機関長は言葉を続ける。
「バールというものがある」
「バール?」
 その単語にアリスは聞き覚えがあった。自身のための武器として作られた、唯一無二の一品。『バールのようなもの』という彼女の武器の名に、その言葉は含まれている。
「バールとは梃子の原理を利用した工具だ。釘を抜き、隙間をこじ開ける。君が使う『バールのようなもの』とは違い、武器としての利用は想定されていない」
 機関長が何を言いたいのか、アリスには掴めない。それは機関長との対話において多々あることで、だから彼女は黙って話を聞くことにした。

 次→「バールのようなもの」 Part2

スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://longstraight.blog79.fc2.com/tb.php/474-de4c093b
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

 | HOME | 

FC2Ad

 

『Respective Tribute』

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

リンク

このブログをリンクに追加する

プロフィール

kuroron

Author:kuroron
黒髪ロングストレート好きの20代メンヘラです

目撃者数

 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。