不思議の国の軟体鉱物

2017-05

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『Respective Tribute』 第9章「バールのようなもの」 Part2

 前→「バールのようなもの」 Part1

「君の持つ『バールのようなもの』は、武器だ。武器として鋳造された物だ。しかしその形状は、バールと変わりが無い。人間の世界においては、『バールのようなもの』はバールとして扱われることだろう。だがそれでも、『バールのようなもの』はバールではない。『バールのようなもの』という名の武器なのだ」
「……何を言っているのか、全くぜんぜん分からないわ」
 黙っているつもりが、アリスは思わず口に出してしまった。あまりに理解不能な話だったために。
「君も同じだ、アリス」
「私も?」
「君が生まれた時、私は目を疑った。君の容姿はまさしく、『不思議の国のアリス』であった。今まで幾多のシンボルが生まれていったが、私の知る限りここまで人間のイメージと合致する者は存在しなかった。それだけ君は特別であり、同時に唯一性を疑問視される存在なのだ」
「もう少し分かりやすく話してくれないかしら?」
 捉え辛い話の中に、アリスは重要そうな何かを感じていた。それがどのように重要なのかは分からなかったが、それでも聞くべきである、何かを。
「外の世界に出れば、『バールのようなもの』はバールとして扱われるだろう。そして君も、『不思議の国のアリス』として扱われる。君という個人ではなく、物語の現出として」
 その言葉が、アリスの中にイメージを湧き上がらせた。
 模倣。敗北の痛み。『女王』の代理。思い浮かんだ全ては『構造体』での日々であり、彼女の価値と唯一性に対する疑問。
 アリスは求めていた。模造品ではない本物を。価値のある素敵な事物を。
 だが、もしかしたら、自分自身が模造品でしか無いのではないか。
 その想念がアリスを覆い始め、彼女はキーボードを叩いた。「NO」という、2文字を。
「しかし、『バールのようなもの』はバールではなく、君は『不思議の国のアリス』ではない」
 その言葉は、救いであった。
「見えるもの、聞こえるもの、感じるもの。それが物事の本質を掴んでいるとは限らない。それは所詮、側面でしかない。本質はさらに深淵にあり、想像の範疇を越える。それを理解できるのは、それを作った者だけだ」
 作った者――アリスは気付いた。『構造体』から生まれる者は全て、機関長の管理の下で生まれる。つまり自分を作ったのは機関長であり、彼こそが自分たちの親なのだと。
「いや、作った者にも理解出来ないのかもしれない。我々に出来ることはただ、自身の認識を信じることだけだ。自分なりに、感じた全てを」
 親から子への言葉。その真意を汲み取ることは、彼の言葉通り不可能なことなのかも知れない。
「つまり、自分なりに行けば良いってことよね?」
 それでもアリスは、その言葉を彼女なりに受け止めた。
「そうだな、それで良いのかも知れない。自分にとって何が大切で、何を重視して行くか。それを選択出来なければ、外の世界で生きて行くことは難しいだろう」
「大丈夫よ。私はちゃんと、自分の好きなように生きて行ける」
 その言葉を聞いた機関長が、ほんの少しだけ、微笑んだ。気のせいかも知れなかったが、アリスにはそう見えた。だから彼女は、微笑んでくれたと信じることにした。
「行けば良い、アリス」
 意識の混濁。痛みと空気。記憶にある過去から、現実である現在へと浮上する感覚。
「自分なりの、敬意を示せ」
 そして、覚醒――

 次→「バールのようなもの」 Part3

スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://longstraight.blog79.fc2.com/tb.php/475-4f73ec42
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

 | HOME | 

FC2Ad

 

『Respective Tribute』

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

リンク

このブログをリンクに追加する

プロフィール

kuroron

Author:kuroron
黒髪ロングストレート好きの20代メンヘラです

目撃者数

 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。