不思議の国の軟体鉱物

2017-07

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『Respective Tribute』 第9章「バールのようなもの」 Part3

 前→「バールのようなもの」 Part2

 アリスは瓦礫の上で目を覚ました。
 まだ明瞭では無い意識の中、ぽつり、ぽつりと。雨粒が落ちるように、機関長の言葉が跳ねる。
 ――自分なりに。
 自分。自分にとって大切なものとは。自分らしい生き方とは。
 さっきまでずっと、誰かのことを思って戦っていた。ローエングリン、ホンシア、そして敵であるルーシー。
 だけど届かない、全て。
 私は、ローエングリンを理解できなかった。ホンシアのことも理解できなかったに違いない。こんなに大事なのに、2人の意志を理解できなかった。
 そしてルーシーは言う。「意志を尊重しろ」と。それが敬意だと。
 違う。
 それは、私の敬意じゃない。
 私の、私なりの敬意が、他にある。
 私はそれを、示せば良い。
 示さなきゃ、ならない。
 
 気配――アリスはゆっくりと起き上がる。
「まだ、動けるのか」
 ルーシーが地面から僅かに浮きながら、アリスを見つめていた。
「私はどれくらい気を失っていたのかしら?」
 立ち上がるアリス。両手にはまだ、2つの武器が握られていた。
「1分か、それ以下だ。打ち所が悪ければ死んでいたかも知れないが、幸運なことだ」
 アリスは足下にあるのが自動車の車体であることに気付く。もしも建物の残骸に蹴り落とされていたならば、失神では済まなかっただろう。
「さて、まだ戦うか、アリス」
 ルーシーの質問。アリスは静かに頷いた。
「当たり前だわ。だけど、その前に返さなきゃいけない物がある」
 そう言って、彼女は左手に握っていたローエングリンの剣を掲げる。
「返すわ、ローエングリン」
 放り投げた剣が、中庭の片隅で力尽きているローエングリンの方向へ飛んで行く。回転しながら宙から地面へ落ち、滑りながら亡骸の足下に辿り着いて、静止した。
「……どういうつもりだ、アリス」
 ルーシーの質問。アリスは静かに、バールのようなものを両手で握る。
「ローエングリンの、彼の剣を捨てただと……!?」
 怒りの感情が込められた声。侮辱されたかのように、ルーシーの表情が歪む。
「彼の守護を、ローエングリンへの敬意を捨てるというのか、アリスッ!!」
「違うっ!!」
 アリスは力強い声で示した。今までのような感情的な否定ではなく、確固とした意志による否定を。
「私は、ローエングリンじゃない。ローエングリンにはなれない」
 夢の中で、彼女は思い出した。
「どんなに大事に思っても、どんなに想像しても、ローエングリンがどんなに悩んでいたのか、ホンシアが本当はどんな人だったのか、私には分からない」
 届かない領域があるということ。理解出来ないものがあるということ。
「だけど、私は覚えている。ローエングリンと過ごした、楽しかった、今でも大切な、大切な時間を」
 彼女は夢から覚めて気付いた。
「私は忘れない。ホンシアが優しかったことも、一緒に買い物に行ったことも。大事な、大事な思い出だから」
 大切なものがあるということ。信じたいものがあるということ。
「だから、私は私らしく戦えば良いの。私はあの2人にはなれないけど、あの2人を覚えている私でなら、ずっと居られる。2人との時間は、私と一緒にある」
 アリスが彼らと過ごした時間。それは、彼らを語るにはあまりに不十分なのかも知れない。
 だが、アリスにはそれで充分だった。
 彼女にとって大切なのは彼らと過ごした一瞬であり、彼女が信じたかったのはその一瞬に見えた彼らの優しさだったから。
 アリスは理解出来ない本質を捨て、信じることの出来る表出を選んだ。
 それだけが、2人と自分を繋ぐ思い出だから。

 次→「バールのようなもの」 Part4

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