不思議の国の軟体鉱物

2017-05

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『Respective Tribute』 第9章「バールのようなもの」 Part5

 前→「バールのようなもの」 Part4

 上昇を続けるルーシー。大地から離れていく、その意図は、何か。
 夜空の虚空へ向かう急激な空気抵抗の中、微かな疑問を抱えてアリスは追随する。地表から離れるに連れて、次第に近づくルーシーの背中。
 ゆっくりと、ルーシーが振り返った。体の正面をアリスと地球へ向け、彼女はなおも昇り続ける。微笑んだまま、さらに高く、高く。
 膨れ上がる疑問を、アリスは決意で握り潰した。いくら考えようとも、ルーシーの真意に辿り着くことなど出来ない。今必要なのは相手の一挙一動を見落とさない集中力と、それを保つための意志。両手で強く握った凶器を命中させるという、強い決意。
 アリスはルーシーへの注意を途切れさせないまま、加速度発生を限界まで強める。
 急速に近づいて行く両者。
 間合いを計ったアリスの、一閃。ルーシーの急降下。
 手応えは無かった。アリスに知覚できたのは、笑みを深めた残像が通り過ぎたことだけ。彼女はすぐに上から下へと転進し、落下するルーシーを重力と魔力の加速度で追う。
 すれ違った瞬間の笑み。アリスはそこに、相手の意図を垣間見た気がした。
 試してみよう――ルーシーが言った言葉を思い出し、アリスは奥歯を噛み締める。精神的な優位と力量的な優位の両方を保ったまま、ルーシーが自分を観察しているような感覚。敵の笑みが、アリスにそれを感じさせた。
 ルーシーから漂う強者の傲慢。アリスはそれを叩き潰したいと思った。両者の優劣などもはや存在しないことを、バールのようなものの強打によって証明してやりたかった。
 模型のような館を俯瞰しながらの降下。先を行くルーシーは落下方向に背中を向けて、まだ笑っている。
 込み上げる感情、だがアリスの認識は揺るがない。想像する必要など既に無かった。
 目指すべき行動は、単純な殴打。
 たった1度でいい。それで全てが証明されるとアリスは信じていた。自分自身の価値も、死んでいった者たちとの思い出の価値も。そして、ルーシーの誤りも。
 迫る地表、館の屋根。ルーシーはアリスに背を向け、その直後、屋根に大きな穴が開いた。振動破砕で開けたであろうその穴に、ルーシーは吸い込まれていく。アリスもそれを追って、高速で落下を続ける。
 減速はぎりぎりまで行わない。決して、ルーシーを逃さないように。
 穴が目の前に近づき、館の2階が見えた。さらに1階へと開く穴、その下に瓦礫の山。アリスは減速と同時に、その山を吹き飛ばすようにバールのようなものを振るう。
 振るった凶器の先端が瓦礫ごと床を破壊し、アリスはその反動と減速の加速度によって斜め上方向へと弾き飛ばされる。落下の衝撃はバールのようなものが吸収したため、彼女は天井に頭をぶつけそうになりつつも無傷で着地に成功した。
 破壊による粉塵が煙となって充満する室内。
 声が、響く。
「素晴らしい」
 不明瞭な視界の先で、人影が揺らめく。
「想像以上の魔力、いや、認識か。ほんの少しだが理解できたぞ、アリス」
 強襲に備え、身構えるアリス。隙さえあれば、自身が強襲することも視野に入れて。
「今までの君とは、判断力が違う。私の行動に対する反応速度が確実に上がっているようだ。攻撃は単調になったが、そちらも速度は向上している。まるで、迷いが消えたように」
「自分の戦いやすいようにやれば良いって気付いただけだわ」
「それで私に勝てると?」
「勝つわ、絶対」
 アリスを覆っていた想念。過去から現在にまで連なる、ルーシーとの優劣。だがもはや、彼女にとってそれは問題では無かった。
 彼女の蓄積された記憶が、他者との日々が、それ以上の意志となってアリスを突き動かしていた。敗北の歴史などその一部に過ぎず、それを塗り替えようとする勝利への渇望が記憶から溢れ出している。
 彼女が目にした光景が、耳にした言葉が、彼女の動機として息衝く。そして更なる記憶を得ようと、感覚が、筋肉が、精神が、力を帯びている。
 記憶を基本としたアリスという存在が、そこに生きていた。

 次→「バールのようなもの」 Part6

スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://longstraight.blog79.fc2.com/tb.php/478-a04a6492
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

 | HOME | 

FC2Ad

 

『Respective Tribute』

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

リンク

このブログをリンクに追加する

プロフィール

kuroron

Author:kuroron
黒髪ロングストレート好きの20代メンヘラです

目撃者数

 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。