不思議の国の軟体鉱物

2017-10

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『Respective Tribute』 第9章「バールのようなもの」 Part6

 前→「バールのようなもの」 Part5

「その自信の根拠が何処にあるのか、私にはどうにも分からない」
 煙は次第に散り散りになって行き、視界はお互いの姿を確認できる程度に正常化していた。
「自信があるわけじゃないわ。でも、勝つのよ」
 客観的な認識では、勝利など程遠い。だが、それが正しいという証明も無い。だからこそ、アリス自身の意志は強かった。強くなければならなかった。勝利を実現する加速度を発生させるために。
「論理的でないが、確かに君らしい。勝利自体への決意が、戦いに対する集中力を高めているということか」
 構えられるルーシーの手刀。
「陰島に似ているようで、少し違うのだろうな。何故だろうか、上手く言葉に表せない」
 アリスにとっても、それは同じだった。自身の感情を言葉で表すことは出来そうに無く、ただ行動として示すことしか考えられなかった。
「まだ戦いが足りないのだろうな。君をより深く知り、敬意するためには」
 敵の加速、寸分の差で対抗する打撃。アリスに向かってきたはずのルーシーは後退しており、アリスの一撃は空を切る。
 再び、ルーシーの加速。すかさずバールのようなものを振り回すも、やはり回避され、先端が壁を叩き付けた。衝撃で館全体が震えるが、宙に浮くルーシーには何の意味も無い。震動の中、ルーシーの攻撃が容赦なく迫る。
「くっ!」
 慌てて腕の筋力と加速度発生で薙ぎ払ったバールのようなもの。ルーシーに回避行動を取らせたものの、先端がまたしても壁を打った。
「狭い屋内では戦い辛いだろう。私も相手が君ではなくローエングリンであったなら、苦戦している所だ」
 ローエングリンが相手だったら、周りの壁を破壊するくせに。
 アリスは心の中で愚痴り、直後、その想像が答えへと繋がっていることに気付いた。
 自然に思い浮かんだ発想。それは他の誰でもなく、自分自身を映した鏡。自分らしい戦い方への糸口。
 思い付き、描いた光景から導き出される、答え。アリスはその答えを信じることにした。
 ルーシーの接近。アリスはバールのようなものを強く振るって退かせ、勢い余った攻撃が壁や柱を叩きつける。
 接近と打払い。その攻防は何度も繰り返され、家具や壁が次々に破壊される。そして、戦いのスペースも次第に広がって行った。
「ずいぶんと暴れたものだ。向こう見ずにも程があるな」
 荒い息を吐くアリスを見て、ルーシーは呆れたように言った。
「重傷の私よりも体力の消耗が激しいようだ。こちらとしては好都合だが、どうするつもりだ、アリス」
 余裕の表情を浮かべているルーシー。アリスは息を落ち着かせながら、耳を澄ませる。
 微かな震動音と、軋む音。
「こうするのよ」
 彼女はバールのようなものを床に叩き付ける。震動の増幅。音の広がりと共に館が歪んで行く。
「まさか……」
 異変に気付いた様子のルーシーに、アリスが攻撃を仕掛ける。回避行動が間に合わなかったのか、ルーシーの右手が凶器を持つアリスの両手を掴んだ。
「まさかこれを狙っていたとはな、アリスッ!!」
 館の崩れ落ちようとする音が、より大きく響き渡っていく。アリスの放った幾つもの打撃に込められていた僅かな振動破砕。その連続に疲労を起こした館の材質が、最後の一撃により一斉に崩壊を始めていた。
「私だけを視野に入れることで渡り合うつもりなのだと思っていたが、そこまで単純では無いということかっ!! 勝利に対する執着が、己の身を顧みない覚悟が、この大胆さを呼び覚ましたのかっ!?」
「違うわ」
 両手を掴まれたまま、アリスは前に向けて加速度を発生させた。ルーシーを押し留める、不退転の意志表示。
「私は貴女の言葉に、ローエングリンと貴女の戦いを想像したの。それは私の心が勝手に描いた光景だけど、だからこそ私らしい答えがそこにあると思ったの」
 耐久力の限界へ達した柱に亀裂が走り始め、穴の開いた天井が潰れ始める。
「私はただ、自分の心を信じただけ」
「まだだ、まだ足りないのだっ!!」
 掴んでいた両手を押し退け、ルーシーが背を向けた。
 破壊される壁。加速と追撃。届かない背中。
 そして、崩落する。

 次→「バールのようなもの」 Part7

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