不思議の国の軟体鉱物

2017-10

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『Respective Tribute』 第9章「バールのようなもの」 Part9

 前→「バールのようなもの」 Part8

「ルーシー・ガーフィールドCEO、いえ、『女王』とお呼びすべきなのでしょうか」
 奈々子は黒茶色の手帳をルーシーへと提示する。
「警視庁公安部、対魔力犯罪班所属の志村奈々子と申します」
 凛とした態度で述べた奈々子に、ルーシーが不敵な笑みを向ける。
「迎えに来たのだろう、アリスを」
 奈々子の目がちらりと、アリスを見た。アリスにはその目が不安に満ちているように思えた。
「そちらの少女は我々の班に所属している者です。どうか引渡しに応じて貰えないでしょうか」
「応じない場合は?」
「こちらもそれなりの対応を取らせて頂く他、ありません」
 ルーシーに怯むことの無い、断固とした声調。そんな奈々子の姿が、逆にアリスを不安にさせた。
 奈々子もまた、殺されてしまうのではないかと。
「だめ……」
 最悪の想像に背中を押され、アリスは起き上がろうと魔力を発生させる。浮き上がろうとしたその身体は、すぐにルーシーの右足によって地面に抑え付けられた。
「アリスッ!!」
 奈々子の声。痛み。
「こちらに引渡しを拒否する理由は無い。だが、質問したいことがある」
 ルーシーの声。無力な自分。
「この少女は、君にとって何だ?」
「同僚……いいえ」
 しばしの沈黙。
「……大切な、友人です」
 流れる、涙。
「……少しだけ、アリスと話をさせて欲しい」
「分かりました」
 ルーシーが膝を折って屈み、その顔をアリスの顔へと近づける。
「アリス」
 囁かれる、名前。
「私は人間の数を増やそうと思う。人類は既にこの星が維持できる数を超えつつあるのかも知れないが、私はもっと人間が増えることを望んでいる。その先に、よりの多くの自由と可能性が存在するのだから」
 言葉。真意かどうかは、アリスには分からない。
「私がそれを実現するには、力が必要だ。生物としての、社会的な人間としての、そして『構造体』の長としての」
 アリスには理解がおぼつかない。何を言っているのか、掴めない。
「今日の戦いによって、私は生物としての意志を高めることが出来た。だが、それでも何もかもが足りないのだろう。私はもっと精神の力を、財力を、この世に溢れる全ての力を求めなければならない」
 髪を掻き分けられ、アリスの耳にルーシーの口元が寄る。
「私を倒したければ、世界を知れば良い。そこには君の力となるものが数多にあり、力を求める私の影もまた、そこに点在する。君がより広く世界を求める程、君は私に近づくだろう」
 朦朧とする意識をすり抜けるように、アリスの脳裏で言葉が響いた。
「……良い友を持ったな」
 最後にそう言って、ルーシーが立ち上がる。
「また会おう、アリス」
 アリスの視界からルーシーが退場する。入れ替わりに駆け足と、愛しい顔。
 奈々子。
「しっかりして、しっかりしなさい、アリス!」
 アリスは微笑んだ。大丈夫だと、返答する代わりに。
「早くお願い!! 急いで!!」
 担架に乗せられ、アリスは運ばれて行く。
「ごめん、アリス、私、信じてあげられなかった。無事に帰ってくるって、信じて待てなかった」
 そんなこと、いいのに。
 約束を破ったのは、自分の方なのに。
 言葉を発する力は無く、アリスは微笑み続けることで応えた。
 ヘリコプターに乗せられ、浮上する感覚。奈々子の後ろに、黒い女性。
 混濁する意識の中、アリスは目を閉じる。体中に何かを付けられ、右手が握られる。
 温かい体温が、不安を打ち消して行く。
 痛みは鋭く、疲れで身体も動かない。しかしアリスは、死のイメージが自分から消えているのを感じた。
 死なない。忘れない。その確信を、奈々子がくれた。
 だから、安心して眠ることが出来る。
 目が覚めても、全部覚えている。大切なことは、全部。
 夢の、景色さえも――

 次→「バールのようなもの」 Part10

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