不思議の国の軟体鉱物

2017-10

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『Respective Tribute』 第9章「バールのようなもの」 Part10

 前→「バールのようなもの」 Part9

 血の滴る両脚を空中でぶら下げながら、カレンは『女王』を待っていた。
 彼女の後ろでは万が一のための治療器具とスタッフを載せたリムジンが、彼女の隣では『ぬいぐるみの女神』と称される少女――ベイビードールが、彼女と同じく『女王』の帰りを待っている。
 そして館の明かりを背に、彼女らの主が現れる。カレンは駆け寄りたくなる気持ちを抑え、『女王』が近づいて来るのをじっと待った。無様に傷付いた脚で絶対の強者たる『女王』を心配するなど、無礼にも程がある。だから彼女は敗者に相応しい沈黙を保ち、今宵の勝者を迎える。
 ゆっくりとカレン達の待つ場所へ進む『女王』の姿。その全身がハッキリと見えた時、カレンは驚きを隠すことが出来なかった。
「手厳しくやられたようだな、カレン」
 そう述べる『女王』の身体には痛々しい傷が幾つもあり、その表情には苦痛と疲労が色濃く浮かんでいた。
「どうした、カレン」
「……いえ、申し訳ありません」
 カレンは自身の不甲斐なさを思い知り、拳を握り締める。
「我々が、我々がアリスとホンシアを排除できなかったばかりに」
「いや、君らは充分に働いてくれた。だからこそアリスに邪魔されること無く、ローエングリンを倒すことが出来た」
「しかし、周紅霞の銃撃を防ぐことが出来ませんでした」
「ベイビードールは重傷を負わし、狙撃銃も奪った。あの状態での攻撃が命中するなど、考えられなくて当然だ」
 そう言って、『女王』はベイビードールへと近寄った。俯いていたベイビードールは顔を上げ、不安げな瞳で『女王』を見る。その胸には、ホンシアの狙撃銃が大事そうに抱えられていた。
「それを渡してくれないか、ベイビードール」
 『女王』が手を伸ばすと、彼女は狙撃銃を一層強く抱きしめた。『女王』からホンシアの遺品を守るかのように。
「渡したくないのか、ベイビードール」
 ベイビードールは頷いた。言葉は無く表情も乏しい、しかし確固たる意思表示であると、カレンには思えた。
 『ぬいぐるみの女神』として、自分と同じように『女王』の命令に従ってきたベイビードール。だがホンシアの殺害を行わず、彼女の狙撃銃を抱えるその様子には何かしらの自我が感じられた。
 ベイビードールとホンシアに、一体何の繋がりがあるというのか。
 それを知る由は無いが、たとえどんな繋がりがあろうとも『女王』への反抗など愚かしいことである。カレンにはそれだけが真実だった。
「いいだろう、ベイビードール。君がそれを大事に思うのなら、君が持っていれば良い」
 『女王』はリムジンへと向かい、後部座席に腰掛ける。即座に、医療班が応急処置を開始する。
「本当に、今日の戦いからは多くのことを学ばせてもらった」
 眼を瞑り、呟くような声量で『女王』が語りだした。
「闘争における己の可能性を求めた陰島、主君への忠義を貫き通した神崎、守るべき全てを守ろうとしたローエングリン、果たすべき目的に邁進し続けたホンシア、そして――」
 続く賛辞を妨げるように、ヘリコプターが駆動音を轟かせながら頭上を過ぎて行く。『女王』が賛美しようとしたのは、それに乗っているであろう娘に違いなかった。

 次→「バールのようなもの」 Part11

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