不思議の国の軟体鉱物

2017-05

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『Respective Tribute』 第9章「バールのようなもの」 Part11

 前→「バールのようなもの」 Part10

「アリスは……どうなりましたか?」
 カレンは訊ねずには居られなかった。自分に屈辱と嫉妬をもたらし続ける、愚かな少女の末路を。
「重傷だ。恐らく、命は助かるだろうが」
 アリスの生存。半ば予想していた事実を聞いた時、カレンは自分の中で不満ではなく安堵が広がるのを感じた。
 雪辱を果たす機会は失われていない。そのことは、彼女にとって救いであった。
 それを察したのか、『女王』はふふっ、と笑いを漏らす。
「アリスは、我々とは別の可能性かも知れない」
 その言葉の意味が掴めず、カレンは聞き返す。
「別の可能性とは?」
「我々の目指すべきは、人類全体の発展だ。だがアリスにとって重要なのは、人類という総体ではなく人間個人の存在なのであろう」
「そこに、どんな可能性があると言うのです」
「私が為そうとしているものは、大義だ。それを為すためには陰島のような強者を糧とし、より高みを目指さなければならない。しかし、それによって失われる可能性もあるはずだ」
「それを、アリスが拾い上げると?」
「その通りだ。我々が切り捨ててしまった可能性の中に、もしかすれば砂金のように輝くものもあるのかも知れない。それを見つけ出す可能性を、アリスは持っているのだろう」
 本当に、そのような希望がアリスに秘められているのだろうか。カレンは疑問に思いつつも、それを否定することが出来なかった。彼女の両脚は、アリスの不可解さによって破壊されたのだから。
「出来ることなら、宝石箱の中で夢を見続けて欲しかったが……これはこれで、良いのかも知れないな」
 『女王』は嬉しげに微笑む。今回の戦いにおいて、『女王』は味方である自分たちよりも敵であるアリスや陰島に期待を寄せていた。最も『女王』の近くにいたカレンは、そのことを痛いほどに分かっていた。
 『女王』の靴として生きる限り、自分には『女王』が望むような未知の可能性を示すことは出来ないだろう。そう思いながらも、カレンには『女王』に従う以外の道など考えられなかった。
 たとえ寵愛を得られずとも、『女王』と共に歩めるのであれば全てが充足する。彼女の本質は、主の靴として進むことなのだから。
「さて、帰ろうではないか。今宵の痛みも、闘志も、言葉も。全ては糧となり我々を進ませる。偉大な強敵への敬意を、我々は示し続けなければならないのだ」
 カレンは頷き、ゆっくりと車のドアを閉める。そして彼女は、光の点となって夜空に去っていくヘリコプターを見上げた。
 次にアリスと会う時も、彼女は敵として現れるに違いない。しかしアリスが輝く砂粒をいくら拾い上げようとも、『女王』という金剛石の前では無価値であり、その足下にすら及ばない。それを証明するのは、『女王』の靴である自分の役目なのだ。
 カレンはその決心を胸に、リムジンへと乗り込む。『女王』が大義を為す力を求めるように、自分もそれを助ける力を磨かなければならない。両脚の傷とアリスの存在がそれを痛感させ、その点においてのみ、カレンはアリスに感謝したいと思った。
 『女王』という絶対の基準ではない、通過点としての指針。方向の定まった意志が加速度を増加させ、胸の高まりと共にカレンの認識を広げて行く。
 彼女は痛む両脚を擦りながら、その鼓動に身を委ねるのだった。

 次→第10章「贈り物」 Part1

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