不思議の国の軟体鉱物

2017-05

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『Respective Tribute』 第10章「贈り物」 Part1

 前→第9章「バールのようなもの」 Part11

 目を覚ました時、アリスは夢の内容を覚えていなかった。
 格子状に線の走った真っ白な天井を見上げながら、彼女は眠りの中で見た光景を思い出そうとする。しかし、思い出せたのは大切な旧友の顔。ローエングリンの姿。そして、夢でない事実を思い返してしてしまう。
 ローエングリンとは二度と会えないという事実を。
 あれから何日経ったのだろうか。アリスは日数を数えようとしたが、ベッドの上で過ごした時間がそれを曖昧にさせていた。それでも、あの戦いは確かにあった。両手足の傷がその証拠であり、敗北の証拠でもあった。
 もし自分が強ければ、ルーシーを倒すことが出来たのだろうか。ローエングリンを、ホンシアを死なせずに済んだのだろうか。その答えもまた、曖昧だった。
 確かなのは自分が見聞き出来たものだけ。それ以外の全てが曖昧で、夢のようなものだった。
 在り得なかった想像と、起こってしまった事実。その狭間で思考と想起を繰り返しながら、アリスの意識が徐々に覚醒して行く。そして彼女は、窓から差し込む熱が左腕を照らしているのを感じた。外に出ればきっと、麗かな日差しと心地良い大気が満ち溢れている。そう思わせるような温度だった。
 日本の春。桜。アリスはその実物を見たことが無かった。見てみたいと思った。
 窓から見えるかも知れないと、アリスは腰の力と魔力による加速度発生で身体を起こす。その時、彼女は視界の隅に人影を見つけた。少し驚きつつその方向を見ると、そこに少女がいた。
 子熊を模した、パジャマ風の着ぐるみと耳の付いたカチューシャ。真っ赤な薔薇の花束を抱えたベイビードールが、無垢な目をしてアリスを見つめていた。
「ベイビードール……お見舞いに来てくれたのね」
 意外な来客であったが、アリスは心底嬉しく思った。ローエングリンを失った今、彼女が人間社会で再会出来た友人はベイビードール以外に存在しない。
 過去の繋がりによる優しさ。それはアリスにとって、ルーシーの対極でもあった。
 ベイビードールはアリスへと歩み寄り、くぁ、という寂しげな鳴き声と共に花束を差し出した。瑞々しい紅の花。その色にルーシーを連想しつつも、アリスは両手でそれをそっと受け取った。
「ありがとう、ベイビードール」
 思い浮かべてしまった不快を隠し、アリスは優しく微笑んだ。それを見たベイビードールは俯き、着ぐるみの腹部にあるポケットに両手を入れる。そして電子ボードを取り出し、文字を書き始めた。
 何か言いたいことがあるのかしら。アリスは優しい言葉を期待しながら、ペンを動かすベイビードールを見つめる。
 電子ボードからペンを離し、俯いたままのベイビードールがその画面をアリスへと向けた。そこには、こう書いてあった。

「ごめんなさい」

 一体何を謝っているのか、アリスには全く見当が付かなかった。それでも彼女は、顔を伏せるベイビードールの頭に右手を乗せ、ぎこちない手つきで髪を撫でる。
「大丈夫、貴女のせいじゃないわ」
 手を動かすたびに痛む傷口。まだ力の入らない指先。だけどそれは、決してベイビードールのせいでは無い。ローエングリンの死もホンシアの死も、ベイビードールには何も関係無い。
 彼女は何も、悪くは無い。
 アリスはそれを伝えるように、ベイビードールの頭を優しく撫で続ける。悲しげな顔の少女が少しでも笑ってくれるように。
 それ以上に正しい行動など、アリスの認識には存在しないのだから。

 次→「贈り物」 Part2

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