不思議の国の軟体鉱物

2017-07

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『Respective Tribute』 第10章「贈り物」 Part2

 前→「贈り物」 Part1

 奈々子は警察病院の廊下を進みながら、自分やアリスが平穏無事に過ごせている理由を考えていた。
 陰島俊二による『女王』襲撃から既に1週間。事件は表向きは発生して無いものとして、裏では資産家2名を狙ったテロとして扱われている。現場の検証は警視庁主動で行われ、そこに『女王』側からの介入は全くと言って無かった。
 ある遺体の引渡し要求以外には。
 中庭の一角で死んでいた、異様に白を強調した格好の男。司法解剖はそれが人間では無くアリスと同じ生命体、大シンボルと呼ばれるものであることを明らかにした。その遺体が『女王』の部下なのか、それともアリスや陰島の言っていたローエングリンという人物なのか。それはこちら側の生存者であるアリスに訊ねる他に無かったが、どちらにしても『女王』が回収しようとするのは当然の対応だと言えた。
 だが一方で奈々子は、その程度の介入しか『女王』側が行なっていないことを異常だとも感じていた。『女王』の正体と、彼女による殺人。その重大性を考えれば、自分を含め関わった人間の多くに何らかの警告か、それ以上の口封じが行われてもおかしくは無い。
 それなのに、時間は何事も無く経過している。
 その現状から、奈々子はある疑問を持ち始めていた。彼女が今回の事件で発覚したと考えていた、『女王』の正体。だが本当に、日本警察はその正体を知らなかったのだろうか?
 もしかしたらそんなものはとうの昔に周知の事実であり、もはや機密とは呼べない程に多くの人間に知られているのでは無いか。仮にそうだとすれば、『女王』側が隠蔽工作を行わないのも頷けた。
 そしてもう1つの隠蔽すべき事項である『女王』による殺人は、テロ行為の被害者として立場を明示した上で正当防衛を主張できなくも無い。それどころか、事件を阻止出来なかった日本警察の責任を追求出来る余地すらある。
 そんな奈々子の想像が正しければ、『女王』側が隠すべき真実など存在しないことになる。下手な介入は、むしろ事態を紛糾させる火種となり得るだろう。
 何もせず、日本警察の沈黙に全てを委ねる。それが『女王』側にとって最適の戦略である可能性は十分に考えられた。
 そのような推理を思い浮かべながら、奈々子はエレベーターの昇降ボタンを押した。降りてくるエレベーターを待ちながら、彼女はアリスについても思考を巡らす。
 アリスの重要度は今回の事件で大きく高まったと、奈々子は考えていた。日本国内で起きた最大級の魔力犯罪の目撃者であり、被害者であり、加害者でもある少女。そして、人間社会に潜む別の知的生命体の存在を証明できる存在。『女王』の正体を証明できる者。
 それなのに、アリスに対する警護と監視は全くと言って行われていない。
 奈々子の認識と食い違うアリスへの対応。彼女が重要視されていないとすれば、その理由は何か?
 エレベーターの到着音が響き、奈々子の集中は思索から目の前の扉へと移る。開いた扉の先、降りてきた箱の中には熊の着ぐるみのようなパジャマを着た女の子が立っていた。頭には熊の耳が付いたカチューシャを付け、小熊になり切っている少女。奈々子はその姿が奇妙ながらも可愛らしく見え、自然と微笑んでしまう。
 一方の女の子は笑顔を返すことも無く、するりと奈々子の横を通り過ぎて廊下を歩いて行く。奈々子はその後ろ姿を見送りながら箱に乗り込み、アリスの病室がある階層をパネルで指定する。そして意識もすぐに、小熊の女の子からアリスへと切り替わる。

 次→「贈り物」 Part3

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