不思議の国の軟体鉱物

2017-09

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『Respective Tribute』 第10章「贈り物」 Part3

 前→「贈り物」 Part2

 昇り始めるエレベーターの中、奈々子はアリスに対する自身の認識を整理する。
 アリス。『構造体』から来た、人間でない少女。可愛らしく、無知な少女。強い魔力と無邪気な愚かさを持った、ただの少女。
 その身に秘められた現代以上の技術も、その声が語ることの出来る『構造体』の情報も、彼女の奔放さからは想像も出来ない。それでも彼女に技術と情報が秘められている限り、彼女は唯一無二の存在に違いないはずだった。
 アリスの特異性。それは『構造体』の技術と情報に立脚している。今回の事件が無くとも、彼女は重要な存在であったはずだ。
 だが奈々子は、アリスに対して制限無く接することが出来ていた。アリス自身もまた、発信機及び盗聴器の内蔵されたリングを足首に付けられている他は、基本的に自由な行動を許されていた。
 その上、彼女の治療を今現在行なっているのは警察病院である。人間で無い彼女の治療であれば、機密性の高い研究機関で行うのが当然であるはずなのに。
 アリスの処遇に対する違和感が、奈々子の中にあった前提を揺るがし始める。そうして彼女の脳裏に、ある仮説が浮かび上がった。今まで気付くことの出来なかった、もしかしたら考えることを避けていたのかもしれない、そんな仮説が。
 階層を示すパネルの数字が増加していくのを見つめながら、奈々子は自身の考えを反芻する。
 大シンボル。人間でない彼らは、本当に稀有な存在なのか。『女王』はもはや人間としての社会的地位を確立し、ローエングリンという者は陰島の庇護を受けていた。彼らの他にもきっと、人間と密接に関係している大シンボルは数多くいることだろう。それはこの日本においても、そして日本警察が関与する範囲においても。
 奈々子は今まで、アリスだけがそのような存在だと信じきっていた。だが、合理的とは言えないその前提を否定すれば、全ての違和感は解消される。アリス以外に『構造体』の情報を提供し、『女王』の正体を証明できる大シンボルがいるとしたら、アリスを特別視する必要など在りはしない。より優れた協力者が他にいるのであれば、アリスはただの少女でしか無い。
 何故、そんな簡単な可能性に思い当たらなかったのか。その答えは、考えるまでも無かった。
 アリスが特別であると、信じていたかったのだ。
 自分が人知の及ばぬ非日常に触れていると、感じていたかったのだ。
 上昇を終えたエレベーターが止まり、扉が開く。奈々子はアリスの病室へ向かって、ゆっくりと歩き出す。
 社会におけるアリスの価値など、自分の幻想でしか無かったのかも知れない。だがそんな幻想を抱かせるほどに、自分にとってのアリスは大きな存在なのだ。そのことを、奈々子は受け入れつつあった。
 アリスの語る空想のような別世界の話と、彼女自身の無垢な愛らしさ。それらはまるで不思議の国へ誘う白兎のように、今も奈々子の興味を惹き付けている。
 アリスが自分の傍にいてくれること。凄惨な事件を乗り越え、生きていてくれること。自分に笑いかけ、世界をほんの少し彩ってくれること。それら全てに感謝すべきなのだと、奈々子は思い始める。
 そして、思い付く。アリスに何か贈り物をしようと。自分が出来うる限りの、彼女が喜んでくれるような贈り物を。
 思い立った奈々子は何を贈ろうかと考えながら廊下を曲がり、アリスまでの最後の直線を進む。
 服とかは……ちょっとありきたり過ぎるか。部屋における小物は……そこまで喜びそうじゃないし。
 アリスに似合う物品を思い浮かべながら、奈々子はどうしてか、日常が戻って来たような気分を覚えていた。

 次→「贈り物」 Part4

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